第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-8] 一般演題:脳血管疾患等 8

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:20 第3会場 (会議場B1)

[OA-8-4] 脳出血により空間認知障害を呈した皮質盲の事例

護摩堂 秀之助, 佐々木 正詞, 城戸 智之 (富山県済生会富山病院リハビリテーション科)

【背景】OTは生活の障害に対してアプローチする職種であるにもかかわらず,視覚障害者に対しては生活相談員や歩行訓練士が関わっており,ほとんど取り組みが行われていないのが現状である(江藤文夫ら,2008).今回既往に皮質盲があり,脳出血により空間認知障害を呈した事例に視覚以外の刺激により改善を試みた経験を報告する.なお,本報告の趣旨について本人に説明し同意を得た.
【事例紹介】事例は60歳台男性.X -20年一過性脳虚血発作を契機にA病院で精査,もやもや病の診断.X-10年左後頭葉の脳梗塞で当院入院,右後頭葉・前頭葉の陳旧性梗塞も認め,皮質盲(指数弁)の状態となった.X年Z日左半身の感覚障害と片麻痺が出現しB病院受診.右頭頂葉・側頭葉皮質下出血と診断され当院入院となった.病前は妻と生活,ADLは自立していた.
【作業療法評価】左半身に重度表在・深部感覚鈍麻を認めた.視覚は光覚弁であった.基本動作は見守り~軽介助.歩行は軽介助(右へ寄っていくため,右手で介助者の肩を把持).ADLはFIM81(運動48,認知33)点で,動作全般(特に食事・トイレ動作)で道具の位置や場所が認識できず誘導介助を要した.高次脳機能は,MMSE15点で,減点項目は見当識,計算,逆唱,再生(理解,読字,書字,描画は実施困難)であった.右偏視,頚部右回旋傾向あり,50cm紐の二等分(右手で触覚探索)では右へ8cm偏位あり左半側空間無視を認めた.また紐結び,パズル等の実施が困難であり構成障害の合併が疑われた.
【治療計画】Z+1日から介入開始.食事,トイレ動作の自立を目指し,阻害となる半側空間無視,構成障害,感覚障害に対してADL場面に積極的に介入していくと共に,健側上肢での探索課題,構成課題,麻痺側の知覚再教育を実施することとした.その際は口頭での指示や物品を叩いて音を出すなど感覚入力を積極的に行うこととした.また介入の際は混乱しないよう治療場所や道具の配置は毎回同じとなるよう配慮し,ベッド周囲も同様に使用する物を定位することとした.
【結果】Z+34日に回復期病院に転院.感覚障害は表在・深部共に中等度鈍麻が残存した.基本動作は自立.歩行は,室内は壁伝いに移動可能となったが,広い空間では位置関係や道順が認識困難で,右折傾向もあり自立には至らなかった.ADLはFIM107(運動74,認知33)点で,食事は自立.更衣はボタン留めに困難さはあるがほぼ自立.トイレは時々ペーパーホルダーの位置を見失うことあり見守りは要したが,移動も含め概ね自力で可能となった.高次脳機能は,右偏視,頚部右回旋傾向は改善し,紐の二等分では偏位みられなくなったが,広い空間では依然右探索傾向がみられた.また蝶々結びや机上でのパズルは可能になってきたが,半側空間無視同様広い空間における位置関係の認識は困難さが残存した.
【考察】視覚入力が困難な事例に対して積極的に聴覚入力を行うと共に,健側上肢への表在・深部感覚入力と生活及び治療環境を定位することにより空間認知障害が改善し,食事・トイレ動作が獲得されたと考えられる.しかし,今回広い空間の移動獲得には至らなかった.要因として①広い空間では刺激が多く,それに比例して聴覚入力も多くなり処理しきれなかった,②ベッド周囲とリハビリテーション室以外の場所は,環境の定位が困難で介入毎に変化し対応できなかった,③健側上肢への感覚入力が大きな情報源であり,リーチ範囲を超える空間の認識は聴覚入力のみでは困難であった等の可能性が挙げられる.
【結論】視覚障害者の空間認知障害に対する介入においては聴覚,表在・深部感覚入力と環境の定位が重要である.しかし,広い空間においては今後介入方法の検討が必要である.