第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等/援助機器

[OA-9] 一般演題:脳血管疾患等 9/援助機器 1

Sat. Nov 11, 2023 12:30 PM - 1:30 PM 第3会場 (会議場B1)

[OA-9-1] C3/4頸髄不全四肢麻痺患者における肩関節・肘関節屈曲筋力とADLの関係

佐藤 航平, 京谷 政昭, 嶋田 俊紀, 小島 虎太郎 (北海道せき損センター 中央リハビリテーション部)

【はじめに】
脊髄損傷(以下脊損)の受傷における調査では,この30年間の間に変化してきており60歳代の一極化となり高齢者の不全損傷が著しく増加していることは明らかになっている.過去の研究から中心性頸髄損傷または非骨傷性頸髄損傷のそれぞれ6割が頸髄3-4番の間(以下C3/4)の損傷であり最も多いとされている.C5髄節障害である肩関節・肘関節の機能障害となり,Activities of Daily Living(以下ADL)に大きな影響を与える.脊損では,上肢機能のわずかな違いがADLや社会参加に影響があると考えられている.しかしADLの予後に関しては脊髄損傷に特化した評価法である ASIA Impairment Scale(以下AIS)を使用したいくつかの報告が見られるが,これには肩関節の機能評価は含まれておらず,肩の筋力を含んだADLの予測の報告は少ないのが現状である.
【目的】本研究の目的は,C3/4脊損患者で肩関節屈曲筋力(以下:肩屈曲)及び肘関節屈曲筋力(以下:肘屈曲)がどの程度ADLに影響するかを明らかとし,肩屈曲の評価が頸損のADLに重要な因子であることを明らかとすることである.
【対象と方法】対象は,2018年10月から2022年7月までに入院し,医師によりC3/4の外傷性頸髄損傷と診断された76人のうち33名を対象とした.年齢は40-80歳(平均66歳)で男31名,女性2名であり,AISのB:1名C:7名D:25名であった.包含基準を,肩・肘に拘縮がないこと,受傷後6ヶ月以上経過した者でAISのB-Dとした.また除外基準を,6か月以内に転院・退院していること,AIS がAあることとした.方法は,肩屈曲・肘屈曲を,6か月時点でのSCIM(Spinal Cord Independence Measure)のセルフケア項目(食事・更衣上衣・更衣下衣・入浴上半身・入浴下半身・整容・セルフケア合計点数)に対し,それぞれの相関を調べた.統計にはEZRを使用し,Shapiro-Wilkの検定で正規分布を調査した後,Spearmanの順位相関係数で検定を行った.さらに最も相関に差のあった入浴の項目に対し,肩屈曲・肘屈曲が共に良好な群と肩屈曲が不良で肘屈曲が良好な群に分け,Mann-Whitney検定を使用し差の検定を行った.肩屈曲はMMT・肘屈曲はAIS motor scoreのC5の筋力を使用した.差の検定に対しては,両側の肩屈曲MMT3以上と以下で分け,良好群・不良群にて検討した.なお,本研究は患者に同意を得て実施しており,当院倫理委員会の承認も得た.
【結果】肩屈曲は肘屈曲に比べ全ての項目において相関係数が高く,特に食事・整容・セルフケア合計点数でかなり強い相関(0,7以上)だった(p<0,05).そして最も相関に差があったのは入浴(上半身・下半身)で,入浴上・下とも肩屈曲ρ=0,521p=0,001肘屈曲がρ=0,342p=0,050であった.そのためMann-Whitney検定により入浴動作に関して肩屈曲が良好群と不良群の差の検定を行い2群間に有意差を認めた(p<0,05).
【考察】先行研究から上肢機能は,支持・保護・到達・操作・表現・その他といった役割が報告されており,その中でも肩関節は支持や操作の役割が大きい.食事・整容・セルフケア合計に強い相関が見られ,急性期から介入する項目が目立つ.当センターでは抗重力で動作が行えなくとも,ポータブルスプリングバランサーを使用しながら積極的に介入しており,肩の機能向上からその後の訓練や本人のモチベーションへと繋がっていくと考える.入浴であれば,衣服を着ておらず摩擦のない状況下で,姿勢保持の補助を行う固定としての役割や洗体・洗髪など操作においては,中枢部での安定が必須と言える.今回の結果から,ADLへの関与が明らかとなり,肩屈曲の評価は重要な因子の一つであり,臨床現場における治療プログラム考案の参考になることが考えられる.