第57回日本作業療法学会

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一般演題

心大血管疾患/神経難病

[OB-1] 一般演題:心大血管疾患 1/神経難病 2

Sat. Nov 11, 2023 2:50 PM - 4:00 PM 第5会場 (会議場B2)

[OB-1-3] 大動脈弁置換術後に誤嚥性肺炎を合併したがTESSが著効した1症例

山下 遊平1, 生須 義久1, 大石 浩貴1, 高柳 麻由美1, 内藤 滋人2 (1.群馬県立心臓血管センターリハビリテーション課, 2.群馬県立心臓血管センター循環器内科)

【序論】近年,高齢化に伴い心疾患有病率は上昇し,心臓血管外科手術(心外)を施行する患者も増加傾向である.心外手術は手術侵襲も大きく,人工呼吸器も使用するため一定の割合で術後嚥下障害が発症する.心外術後の周術期管理において肺炎予防は生命予後にも関与する重要な要素である.しかし,心外術後嚥下障害患者に対する摂食嚥下リハビリテーションの検討は十分にされていないのが現状である.
【目的】大動脈弁置換術後に誤嚥性肺炎を合併したが経皮的電気刺激療法(Transcutaneous electrical sensory stimulation(TESS))のジェントルスティム(フードケア社)が著効した1症例を報告する.
【症例紹介・方法】症例は40歳代男性,Body Mass Index 17.5 kg/m²と痩せ型.基礎疾患は大動脈弁狭窄症.既往に陳旧性脳梗塞と複数回の誤嚥性肺炎があった.弁膜症が徐々に悪化したため,手術目的に入院をした.大動脈弁置換術が施行され術後2日目に人工呼吸器離脱をしたが誤嚥性肺炎を発症し同日再度挿管管理となった.経口摂取に繋がるよう挿管中よりジェントルスティム(フードケア社)を導入した.ジェントルスティム(フードケア社)は頸部への干渉波電気刺激機器であり,干渉波は筋肉ではなく神経に作用することと痛みが少ないことが特徴で患者への侵襲が非常に少ない機器である.介入プロトコールとしては通常ケアに加え,TESSを30min/2times/day行った.術後7日目に再度抜管をした.当院の術後嚥下評価プロトコールに沿って評価を行い同日より嚥下調整食を導入した.嚥下機能評価には嚥下造影検査と比べ感度・特異度の高い標準化されたテストバッテリーの反復唾液嚥下テスト(Repetitive Salive Swallowing Test(RSST))と改訂水飲みテスト(Modified Water Swallowing Test(MWST))を用いて,摂食状況についてはFood Intake LEVEL Scale(FILS)を用いた.身体機能評価には,握力・膝伸展筋力・片脚立位時間・10m歩行テスト・Short Physical Performance Battery(SPPB)・Mini-Mental State Examination(MMSE)・Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS),Barthel Index (BI)を用いた.本研究は本人の同意を得た上で実施して報告する.
【結果】手術前はRSST3回, MWST5点,FILS10点,握力(右/左)18.5㎏/27.5㎏,膝伸展筋力29.1kgf,片脚立位時間1.32秒,10m歩行テスト7.72秒,MMSE30点,HADS-A4点-D2点,BI 100点,SPPB8点であった.再抜管日(術後7日目)ではRSST2回, MWST3点,FILS0点,握力(右/左)10.5㎏/20.5㎏,膝伸展筋力・片脚立位時間・10m歩行テスト・MMSE・HADS・SPPBは評価困難,BI 20点であり同日より嚥下調整食を導入した.ICU退室した術後評価(術後14日目)ではRSST3回, MWST5点,FILS7点,握力(右/左)18.0㎏/24.8㎏,膝伸展筋力17.5kgf,片脚立位時間0.85秒,10m歩行テスト10.06秒,MMSE30点,HADS-A5点-D2点,BI70点,SPPB7点であった.退院時評価(術後38日目)はRSST3回,MWST5点,FILS10点,握力(右/左)20.1㎏/25.5㎏,膝伸展筋力17.2kgf,片脚立位時間8.11秒,10m歩行テスト8.11秒,MMSE30点,HADS-A2点-D2点,BI100点,SPPB8点で自宅退院となった.
【結論】脳梗塞や誤嚥性肺炎の既往があり人工呼吸器を離脱後に誤嚥性肺炎を合併して再度挿管された症例に対してTESSを導入した.その結果,常食摂取まで到達できた.挿管管理中よりTESSを行うことで嚥下反射閾値低下に繋がったことが良好な経過に寄与したと考えられる.近年,心外術後の嚥下障害について発表がされつつありそのような症例にはTESSの導入が術後良好な経過に寄与する可能性が示唆された.