[OB-1-6] 家族との新たなコミュニケーション手段の獲得を目指した長期療養中のDMD者の一例―スイッチでのIT機器操作の支援を通して―
【はじめに】近年, 新型コロナウイルス感染症の流行により, 感染対策の1つとして面会制限を実施している施設が多い. しかし, 面会制限は長期療養患者にとって, 心の支えや楽しみを奪うことになり, 様々な心身機能の低下を来たすことが懸念される(杉山ら, 2021). また, 神経筋疾患患者にとって, コミュニケーション手段を確保することは, 本人や家族にとって重要である(畠山, 1995). 今回面会制限に伴い, 家族とのコミュニケーション手段が制限された長期療養中のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下, DMD)者に対し, スイッチでの情報通信機器(以下, IT機器)操作の支援を行ったところ, 家族との新たなコミュニケーション手段の獲得が図れたため報告する. 尚, 本報告の発表に際し, 本人から同意を得ている.
【症例紹介】A氏, 30歳代男性, 両親と3人家族で関係は良好. X年に確定診断, X+15年にNPPV導入, X+26年に胃瘻造設施行, 同年に当院入院となる.
【作業療法評価】機能障害度ステージⅧ, 眼球・舌・足趾(MMT1-2)等の動きが残存し, 意思表出は発話で可能. ADL全介助, Nsコールはポイントタッチセンサを舌で作動可, IT機器は作業療法訓練時に同スイッチを舌で作動させて伝の心の操作が可能であった. X+30年の面会制限前は, 毎日母親が面会に訪れ, 車椅子乗車時には散歩やカラオケ等を行い, コミュニケーションが密に図れていた. 一方, X+31年の面会制限後の家族とのコミュニケーション手段は, 10分程度のiPad面会のみに制限されていた.
【介入内容と経過】
<第1期:目標共有と介入内容の検討>
X+32年4月にカナダ作業遂行測定(以下, COPM)を参考に目標共有を行った. COPMの結果, 「両親とのお喋り」が挙がり, 重要度9・遂行度1・満足度1であった. A氏からは「親に頼み事ができない」との発言が聞かれたため, 家族との新たなコミュニケーション手段の獲得を目標にスイッチでのIT機器操作の支援を開始した.
<第2期:スイッチでのスマフォ操作の体験>
X+32年5月にスイッチでのスマフォ操作の環境調整を行った. 操作スイッチは残存機能の中で舌の動きが最も円滑であったため, ポイントタッチセンサを選択し, スイッチインターフェイスはAndroid対応のなんでもワイヤレスを選択した. スイッチ入力はスイッチアクセス機能のポイントスキャン方式, スマフォスタンドはA氏が頭頸部右回旋位であったため, 右側の床頭台の上に設置した. 操作環境調整後にスイッチでのスマフォ操作方法の説明を口頭+見本提示にて行い, 文字入力は数回の試行で習得され, X+32年6月中旬頃には見守りなしでネット検索や動画視聴の操作が可能となった.
<第3期:家族との新たなコミュニケーション手段の獲得>
X+32年7月にA氏と相談し, 家族との新たなコミュニケーション手段をLINEに決定した. 文字入力や送信等のLINE操作は数回の試行で習得され, 家族への頼み事等が円滑に可能となった. また, COPMの再評価を行い, 「両親とのお喋り」は遂行度8・満足度7に向上した.
【考察】
スイッチでのスマフォ操作獲得後の変化として, LINEが家族との新たなコミュニケーション手段となった. DMD者にとってIT機器の利用は自己表現や他者とのコミュニケーション等を可能にするため, 社会参加の機会等を提供する点で意義がある(八島ら, 2010). A氏にとって, 家族とのコミュニケーションは重要な作業であり, 自己表現が行える場であったと考える. そのため, 今回スイッチでのスマフォ操作の支援を行い, LINEの獲得が図れた事は, 面会制限等により家族とのコミュニケーション手段が制限された長期療養患者にとっては有意義な支援である事が示唆された.
【症例紹介】A氏, 30歳代男性, 両親と3人家族で関係は良好. X年に確定診断, X+15年にNPPV導入, X+26年に胃瘻造設施行, 同年に当院入院となる.
【作業療法評価】機能障害度ステージⅧ, 眼球・舌・足趾(MMT1-2)等の動きが残存し, 意思表出は発話で可能. ADL全介助, Nsコールはポイントタッチセンサを舌で作動可, IT機器は作業療法訓練時に同スイッチを舌で作動させて伝の心の操作が可能であった. X+30年の面会制限前は, 毎日母親が面会に訪れ, 車椅子乗車時には散歩やカラオケ等を行い, コミュニケーションが密に図れていた. 一方, X+31年の面会制限後の家族とのコミュニケーション手段は, 10分程度のiPad面会のみに制限されていた.
【介入内容と経過】
<第1期:目標共有と介入内容の検討>
X+32年4月にカナダ作業遂行測定(以下, COPM)を参考に目標共有を行った. COPMの結果, 「両親とのお喋り」が挙がり, 重要度9・遂行度1・満足度1であった. A氏からは「親に頼み事ができない」との発言が聞かれたため, 家族との新たなコミュニケーション手段の獲得を目標にスイッチでのIT機器操作の支援を開始した.
<第2期:スイッチでのスマフォ操作の体験>
X+32年5月にスイッチでのスマフォ操作の環境調整を行った. 操作スイッチは残存機能の中で舌の動きが最も円滑であったため, ポイントタッチセンサを選択し, スイッチインターフェイスはAndroid対応のなんでもワイヤレスを選択した. スイッチ入力はスイッチアクセス機能のポイントスキャン方式, スマフォスタンドはA氏が頭頸部右回旋位であったため, 右側の床頭台の上に設置した. 操作環境調整後にスイッチでのスマフォ操作方法の説明を口頭+見本提示にて行い, 文字入力は数回の試行で習得され, X+32年6月中旬頃には見守りなしでネット検索や動画視聴の操作が可能となった.
<第3期:家族との新たなコミュニケーション手段の獲得>
X+32年7月にA氏と相談し, 家族との新たなコミュニケーション手段をLINEに決定した. 文字入力や送信等のLINE操作は数回の試行で習得され, 家族への頼み事等が円滑に可能となった. また, COPMの再評価を行い, 「両親とのお喋り」は遂行度8・満足度7に向上した.
【考察】
スイッチでのスマフォ操作獲得後の変化として, LINEが家族との新たなコミュニケーション手段となった. DMD者にとってIT機器の利用は自己表現や他者とのコミュニケーション等を可能にするため, 社会参加の機会等を提供する点で意義がある(八島ら, 2010). A氏にとって, 家族とのコミュニケーションは重要な作業であり, 自己表現が行える場であったと考える. そのため, 今回スイッチでのスマフォ操作の支援を行い, LINEの獲得が図れた事は, 面会制限等により家族とのコミュニケーション手段が制限された長期療養患者にとっては有意義な支援である事が示唆された.