第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

呼吸器疾患

[OC-1] 一般演題:呼吸器疾患 1

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第7会場 (会議場B3-4)

[OC-1-5] 長期入院となった新型コロナウイルス感染罹患妊婦に対する出産後の育児への不安感に介入した一症例

笹井 祥充, 谷 直樹, 井上 美穂, 会田 慶太, 安倍 諒 (自治医科大学附属さいたま医療センターリハビリテーション部)

背景:
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者には感染予防を徹底した上で,積極的なリハビリテーションが必要であるとされる.リハビリテーションの効果としては身体・精神機能の改善が挙げられるが,精神機能に着目した報告は少ない.今回妊娠33週目の重症COVID-19患者を担当した.退院後の育児に対して不安が強い症例であったため,身体機能に加え精神機能や育児に着目し作業療法を実施し改善がみられたため報告する.報告にあたり,対象者本人には同意を得ている.
症例紹介:
症例は30代女性で当院産婦人科に通院していた妊娠33週の妊婦であった.発熱・呼吸苦から呼吸状態不安定となり,腹緊あり当院に緊急入院となった.COVID-19の診断となり,酸素必要量増加し呼吸状態悪化のため妊娠34週で緊急帝王切開となり集中治療室入室となった.経過としては徐々に安定していき,PCRで陰性確認後に一般病棟へと転棟となった入院17日目に作業療法開始となった.
介入経過:
初回時意識は晴明であり従命は可能であった.安静時はマスク4L/分でSpO2:95%であり呼吸回数は30回/分であった.筋力は上下肢ともにMMT3であり端座位など離床を行うと呼吸数が40回/分まで上昇してしまい,短時間での離床も困難であった.ADLはBarthel Index(BI)で15点であり,精神機能としてはHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)で不安21点,抑うつ19点であり,「起きた時に苦しくなるのではないか」「このままでは子供の世話はできないのではないか」といった発言があった.入院27日目に呼吸状態が再度増悪し,Extracorporeal Membrane Oxygenation(ECMO)導入や気管切開術施行となった.経過ともにECMO離脱,気切カニューレ抜去となり,入院110日目一般病床に転棟となり作業療法は再開となった.呼吸症状は改善しHADS は不安15点,抑うつ7点まで改善したが,初回時に聴取した不安は一貫してあった.そのため作業療法では呼吸補助筋のストレッチや筋力強化に加え,呼吸状態に合わせて基本動作・歩行練習を行なっていった.筋力強化では子供の体重と似た重さの重錘をもち,抱っこの練習や授乳の練習も模擬的に実施した.入院128日目の退院時には室内気でSpO2:98%,上下肢ともにMMT5であり動作時の呼吸苦は軽減しており,ADLはBIで95点(入浴のみ介助が必要)であった.6分間歩行距離が280でありHADS は不安8点,抑うつ4点と運動耐容能改善に伴い,呼吸苦に対する不安から体力低下に対する不安へと変化していった.退院時の指導として活動量計を用いた運動の指導を行い,外来での評価・指導を継続して行うこととした.活動量の目標を退院後1週間は1日1000歩を目標に設定し,授乳に関しては体調の良い日中から始めていくことを同居する家族とも目標を共有した.退院7日後のHADS は不安5点,抑うつ2点であり,「子供の世話は思ったよりできた」との発言があった.そのため,活動量は1日3000歩を目標とし沐浴なども少しずつ家族と共同して行うことも提案した.退院30日後のHADS は不安2点,抑うつ7点であり活動量も増加し,1日平均5000歩程度の歩行もでき育児が不安なく行えるようになったため作業療法は終了となった.
考察:
COVID-19に罹患し,集中治療室で治療を受けた生存例では,1年後に約74%で身体症状が認められ,また約26%で精神症状が,約16%で認知症状が発現すると言われる.本症例は呼吸苦と育児に不安があったが活動量や育児に対する目標を設定し家族も含めた指導を行い精神機能の改善がみられた.身体機能だけでなく精神機能に対しても適切に評価・介入することが重要であることが示唆された.