第57回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-1] 一般演題:運動器疾患 1

Fri. Nov 10, 2023 2:30 PM - 3:30 PM 第6会場 (会議場A2)

[OD-1-3] 筋性拘縮と皮膚性拘縮予防を行った上肢デグロービング損傷の1例

米田 香苗1, 原田 康江1, 向田 雅司2 (1.聖隷浜松病院リハビリテーション部, 2.聖隷浜松病院手外科・マイクロサージャリーセンター)

【はじめに】上肢の複合組織損傷後に筋性拘縮をみとめ,さらに皮膚性拘縮が予測された症例に対し,スプリント療法と圧迫療法を行い良好な成績を得たため若干の考察を加え報告する.本報告について症例の同意を得ている.
【症例】建設業の50代男性,右利き.ベルトコンベアに右上肢を巻き込まれて橈骨尺骨骨幹部開放骨折と上腕から前腕にかけてデグロービング損傷を受傷した.橈骨は骨幹部遠位,尺骨は近位遠位の二重骨折で,同日にそれぞれプレート内固定された.皮膚は上腕中央から手関節近位まで全周性に剥脱していた.洗浄後もとの位置に戻して縫合され,上腕から手関節までシーネ固定された.
【経過】受傷後2日より手指の可動域訓練を開始した.手指屈筋の筋性拘縮をみとめたため伸展位の静的スプリントをシーネ上から設置した.受傷後4日にシーネ固定が解除され上肢全体の可動域訓練を開始した.肘関節・前腕・手関節は自動運動を行い,手指は自動運動に加え屈筋の緊張を緩めた肢位で単関節毎の他動運動を行った.また骨折部への負荷に注意して屈筋のストレッチ,各筋の収縮訓練を行った.訓練時以外は手関節・手指伸展位の静的スプリントを装着した.その後皮膚壊死となり,受傷後7週に大腿部から分層植皮術が行われた.植皮術後約1.5週でほぼ上皮化し訓練を再開した.自動ROMは肘関節伸展-35°屈曲100°, 手指MP関節伸展は示指-12°中指-12°環指-10°小指-6°であった.手関節背屈位での手指伸展が困難であり手指屈筋のdynamic tenodesis testは陽性であった.手指の屈曲lagがあり, 指尖手掌距離(mm)は示指30,中指25,環指20,小指10であった.植皮片の収縮による肘伸展制限が予測されたため術後3週に肘関節伸展位の静的スプリントを作製した.夜間は筋性拘縮に対する手関節・手指伸展位スプリントを装着し,日中はその2つを間欠的に併用した.肥厚性瘢痕予防のため植皮術後4.5週から弾力チューブ包帯を上腕から手関節まで装着した.これは弾力のある筒状包帯で,全周性に圧を加えながら肘関節の運動が可能であった.入浴時以外は装着してもらい,保湿と遮光も指導した.受傷後5か月で骨癒合がえられたが,粉砕が高度であった橈骨は骨折部に一部間隙が残存していた. 受傷後8か月にミキサー車の運転手に配置転換され,軽作業で復職した.
【結果】受傷後10か月での自動ROMは肘関節伸展0°屈曲140°,手指MP関節伸展は示指10°中指6°環指20°小指20°で,手関節背屈位での手指伸展が可能となった.手指の屈曲lagは消失し,握力30kg(健側比83%)であった.瘢痕は成熟した白状部と発赤部が混在しており,目立った肥厚は確認されなかった.DASHは機能障害/症状スコア4.16,仕事0であった.現在も包帯圧迫と夜間の手関節・手指伸展位スプリントを継続している.
【考察】複合組織損傷では各組織の特性に応じた対応が必要である.手指屈筋の筋性拘縮に対しては,早期からのスプリント療法によって短縮を予防し,各筋の自動運動や抵抗運動を行うことで筋の収縮幅を維持できたと考える.皮膚性拘縮は訓練による改善が難しいため予防に重点をおいた.植皮部の位置から肘関節屈曲拘縮が予測されたため伸展位のスプリント療法を施行し,関節部の肥厚性瘢痕予防として圧迫療法を行った.弾力チューブ包帯を選択したことで関節運動を妨げず可動域訓練と圧迫療法を両立できた.それぞれの拘縮を予測しアプローチを行ったことで右上肢の良好な運動を獲得できたと考える.