第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-2] 一般演題:運動器疾患 2

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 第7会場 (会議場B3-4)

[OD-2-4] 大腿骨近位部骨折に対する人工骨頭置換術後の更衣動作獲得に必要な認知機能

柳澤 昌輝1,2, 小林 勇矢1, 櫻井 利康1,2, 富井 啓太1,2 (1.相澤病院リハセラピスト部門, 2.相澤病院整形外科リハ科)

【はじめに】
 大腿骨頚部骨折後の人工骨頭置換術は脱臼リスクを伴い,ADL動作の制限となる.そのため,患者が脱臼肢位を自己管理する指導が必要となる.当院では作業療法士が術翌日より介入し,脱臼予防の為の生活指導をしている.脱臼肢位を理解できる認知機能はMini Mental State Examination-Japanese(以下,MMSE-J)で23点以上とされているが,臨床では生活への汎化に難渋する.一方,認知症の重症度を評価するThe Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System-21 items(以下,DASC-21)では,入院前の日常生活に影響する認知機能を評価できる.また,DASC-21は観察評価であり第三者からの情報で評価でき,せん妄など,入院後の患者の変化に影響されず認知機能を評価できるが,更衣動作自立との関連性は報告されていない.
【目的】
 人工骨頭置換術後(外-後方アプローチ)患者の退院時下衣更衣獲得に必要なMMSE-JとDASC-21のcut off値を調査すること.
【対象】
 2021年8月から2022年3月の8ヶ月間に,80歳以上の大腿骨頚部骨折に対して当院で人工骨頭置換術を施行した患者84例中,受傷前の更衣動作が自立していた49例を対象とした.
【方法】
 下衣更衣の自立の判定はFunctional Independence Measure (以下,FIM)で評価し,1~5点を介助群,6~7点を自立群とした.認知機能はMMSE-JとDASC-21で評価した.DASC-21は認知機能と生活機能を総合的に評価する評価尺度で,21の評価項目が4段階で構成され,合計点数は21~84点で評価する.MMSE-J,DASC-21 は退院時の更衣動作自立の有無との関係を調査するためMann-Whitney検定を行った.さらに各調査項目でROC分析を行い,cut off値を算出した.統計学的有意水準は5%とした.なお,調査に当たって,対象者には紙面にて同意を得た.また,得られた個人情報は匿名化して使用し,所属機関の倫理審査委員会の承認を受けた.
【結果】
 DASC-21の平均値(SD)は39.1(15.8)点,MMSE-Jは21.3(6.8)点であった.退院時の更衣動作自立の有無においてMMSE-J(P<0.05)とDASC-21(P<0.05)のそれぞれで有意差を認めた.退院時の更衣動作自立獲得に必要なMMSE-Jのcut off値は22/23点(感度100%,特異度75%,AUC0.89),DASC-21は30/31点(感度70.3%,特異度91.7%,AUC0.85)であった.
【考察】
 MMSE-Jは先行研究で報告されている脱臼肢位を理解できる点数と同様であった.また,感度が100%であり,更衣動作自立にはMMSE-Jは23点以上が必要という事が分かった.DASC-21は合計点が31点以上は何らかの認知機能低下が判断され,30点以下は認知機能の低下がないと判断される.これは本研究の認知機能におけるcut off値と同様であった.また,特異度が91%と高く,認知機能低下を認めればほとんどの症例で更衣動作の自立が困難だと分かった.これは,DASC-21が認知機能と生活機能の両方を評価できるためだと考える. MMSE-J(感度100%)とDASC-21(特異度91.7%)では基準が違う事が分かり,双方の評価を実施する事で,より信頼性の高い更衣動作自立のアウトカムの設定や早期から患者や家族,多職種へ情報共有ができ,自宅退院の可否や必要なサービスの提案等,効果的な退院支援が可能になると考える.