第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患/援助機器

[OD-3] 一般演題:運動器疾患 3/援助機器 3

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第7会場 (会議場B3-4)

[OD-3-2] 幼児手指屈筋腱損傷後から続く屈曲障害に対する二段階腱移植術後早期自動屈曲法へのMirror therapyとTransfer packageの併用

鳴海 直希1, 相馬 智憲1, 湯川 昌広2 (1.弘前記念病院リハビリテーション科, 2.弘前記念病院整形外科)

【はじめに】関節の不動期間が長いと運動イメージの低下が生じるとされ,患者は「動かし方がわからない」と訴えることがあるが,実際に,長期間の屈曲障害がある患者に対し,脳科学的・行動学的アプローチをした報告は少ない.今回,幼児期受傷後から数年間の屈曲障害を呈し,左中指の不使用が常態化していた症例に対する二段階腱移植術後の早期自動屈曲法にMirror therapyとTransfer packageを併用した.実生活での左中指の使用に至った経過とアプローチを報告する.
【症例】17歳,右利きの女性,診断名は左中指屈筋腱機能不全である.4歳3か月時にガラス片で左中指FDP腱損傷(Zone 2),4歳8か月時に長掌筋腱移植術をしたが,屈曲障害は改善せず,13歳までの間に,腱剥離・腱鞘再建など5回の手術をした.腱鞘再建にFDS腱を用いたため,中指屈曲の力源はFDPのみである.16歳で屈曲障害が再発し,17歳で二段階腱移植術をした.なお,本報告に際し,症例と保護者に書面で同意を得ている.
【人工腱移植術前評価】左中指自動屈曲可動域は,PIP関節26°,DIP関節16°と屈曲lagがあった.%TAMは38%,三指つまみ力3.5kg,握力8.0kg,Hand20は6点,Quick DASHは機能障害/症状スコア0点,スポーツ/芸術活動0点であった.幼児期受傷後から実生活での左中指の不使用が常態化していた.症例からは,左中指が今よりも曲がって使えるようになり,見た目も良くしたいという希望があった.
【経過】人工腱移植術時に,FDP腱を一部用いて,A4・A5プーリーを再建し,末節骨部に縫い代も作製した.人工腱移植術後12週で,左第2趾屈筋腱移植術をした.遠位は縫い代に縫合し,近位は編み込み縫合で強固に縫合した.術翌日から手関節・手指MP関節伸展制限スプリントを装着し,夜間はIP関節伸展位固定とした.また,減張位でのROM ex,Midrange active motion,Place and hold ex,Tenodesis motionを開始した.しかし,術後早期からDIP関節屈曲lagがあり,本症例からも「中指の曲げ方がわからない」との訴えがあった.そこで,Mirror therapyも開始し,患側手指の運動をイメージしながら健側の自動屈伸運動をした.術後3週からスプリントは睡眠時のみ装着し,自動屈曲は深屈曲まで行った.様々な物品の軽いつまみ・握り練習も開始し,Mirror therapyは健患側同時の運動に変更した.術後5週でBlocking exを追加し,その後は週1回程の頻度で外来リハをした.術後6週で夜間スプリントを除去し,他動伸張を開始した.また,左中指の具体的な使用場面を決め,行動日記を用いてモニタリングを促し,困難な動作の問題解決策を検討した.また,COPM(遂行度,満足度)で重要な作業を確認すると,「右手の爪切り(3,4)」などが挙がった.術後12週で動作制限をなくし,電気刺激を併用した自動屈曲運動を開始した.
【結果:術後27週】左中指自動屈曲可動域は,PIP関節90°,DIP関節54°まで改善し,%TAMは79%,Strickland評価はgoodであった.しかし,DIP関節自動屈曲角度が毎回一定でなく,曲げる感覚がわかるときとわからないときがあるとのことだった.三指つまみ力3.5kg,握力12.0kg,Hand20は4.5点,Quick DASHは機能障害/症状スコア4.5点,スポーツ/芸術活動6.3点であった.「右手の爪切り」は(8,10)に改善し,症例からも実生活で左中指を使用している発言が聞かれた.
【考察】本症例が自動屈曲獲得に難渋した原因として,中枢神経機能の問題も考えられ,Mirror therapyとTransfer packageを併用した結果,実生活での左中指の使用につながった.これは,手外科疾患においても手の不使用の常態化を改善するための一手段として活用できる可能性がある.