[OD-3-4] 筋電義手導入に至った発達障害を持つ小児への作業療法
【背景】先天性上肢形成不全児に対する筋電義手の給付は未だに少なく,義手導入の可否,導入時期や訓練方法ついては明確にされていない.中でも,上肢形成不全以外の障害を合併している小児への筋電義手導入例の報告は極めて少ない.片側前腕形成不全に加えて視野障害や構音障害,発達障害を合併した小児に対し外来での作業療法を行い,筋電義手導入に至ったので紹介する.なお,本発表に関し文書にて同意を得ている.
【症例】患児が1歳8ヶ月時に,両親が筋電義手の導入を希望して当院四肢形成不全外来を受診した.児は先天性の顔面,外転神経麻痺を生じるメビウス症候群と診断されており,右前腕形成不全と右内反足,構音,開閉口障害,視野障害を合併していた.右前腕は近位部から軟部組織も含めて低形成で,肘関節の可動域は屈曲10〜135°で回外20°の強直位であった.肘関節は動かせたが前腕筋群の収縮は診察上認めなかった.成長発達歴は在胎42週で出生後,成長曲線の−1SDに概ね沿っていた.定頸5ヶ月,定座6ヶ月,独歩1歳2ヶ月であった.近隣の医療機関で月1回作業療法と言語聴覚療法を行っていた.
1歳11ヶ月時に,作業用義手が処方され,義手訓練目的に外来作業療法を開始した.粗大動作時の義手の取り回しの指導や義手を使った遊びの提案を行い,義手の認知と装着習慣の獲得を促した.2歳4ヶ月時,常に動き落ち着かない様子が目立ってきた.両親を交えて義手で物をつかむ遊びを行った.2歳7ヶ月頃には義手の装着が定着したため,より機能のある能動義手の検討を始めた.児は手先具に興味を持ち開閉を認識できたが,突発的な行動をとるなどフック型金属製手先具の能動義手の使用にあたり危険が伴う可能性もあったので,時間をかけて進める方針とした.3歳11ヶ月時に随意開き式能動義手を使い始めた.児は義手の訓練に意欲的である一方で,集中困難で容易に感情的になり訓練が中断しがちであった.通院先の作業療法士と連携し,プログラムの呈示や刺激を制限するなどの環境設定を行うとともに,当該施設でも義手を使った訓練を取り入れてもらった.4歳時には,更衣や食事動作でも能動義手を使用し,その操作スキルと装着時間は増加していった.5歳8ヶ月時に手先具を随意閉じ式に変更した.遠隔地在住でありCOVID-19の流行により来院困難な期間が2年余り続いた.日常生活では作業用義手を使用し,他施設の作業療法で能動義手の練習を行っていた.8歳2ヶ月の来院時,成長に合わせた能動義手の操作練習やなわ跳び,自転車の練習を行った.訓練時の様子から児が筋電義手の訓練に必要な集中力を得たと判断し,児と両親の希望を再確認したうえで筋電義手の導入の検討を始めた.超音波画像診断で前腕骨周囲に筋腹を認め,さらに,操作に必要な筋電位が随意的に生じさせられることを確認し,筋電義手を導入可能と判断し処方に至った.
【考察】本児は,上肢形成不全と種々の障害を合併していたが,作業用義手から導入し,1年3ヶ月後に能動義手,6年10ヶ月後に筋電義手の導入に至った.小児筋電義手の導入時期については諸説あるが,今回は児の発達状況に合わせて義手の種類を変更し,約7年かけて筋電義手の導入に至った.本児は,早期から義手の装着習慣がついたこと,義手への興味や操作方法を理解でき,両手動作が定着したこと,初診時にはなかった前腕の随意的な筋収縮と筋電位を成長に伴い確認できたことが筋電義手導入につながった.また,両親が義手の訓練に時間を要すことを理解していたこと,他施設と連携して義手の訓練を行えたことが筋電義手の導入を可能にしたと考える.
【症例】患児が1歳8ヶ月時に,両親が筋電義手の導入を希望して当院四肢形成不全外来を受診した.児は先天性の顔面,外転神経麻痺を生じるメビウス症候群と診断されており,右前腕形成不全と右内反足,構音,開閉口障害,視野障害を合併していた.右前腕は近位部から軟部組織も含めて低形成で,肘関節の可動域は屈曲10〜135°で回外20°の強直位であった.肘関節は動かせたが前腕筋群の収縮は診察上認めなかった.成長発達歴は在胎42週で出生後,成長曲線の−1SDに概ね沿っていた.定頸5ヶ月,定座6ヶ月,独歩1歳2ヶ月であった.近隣の医療機関で月1回作業療法と言語聴覚療法を行っていた.
1歳11ヶ月時に,作業用義手が処方され,義手訓練目的に外来作業療法を開始した.粗大動作時の義手の取り回しの指導や義手を使った遊びの提案を行い,義手の認知と装着習慣の獲得を促した.2歳4ヶ月時,常に動き落ち着かない様子が目立ってきた.両親を交えて義手で物をつかむ遊びを行った.2歳7ヶ月頃には義手の装着が定着したため,より機能のある能動義手の検討を始めた.児は手先具に興味を持ち開閉を認識できたが,突発的な行動をとるなどフック型金属製手先具の能動義手の使用にあたり危険が伴う可能性もあったので,時間をかけて進める方針とした.3歳11ヶ月時に随意開き式能動義手を使い始めた.児は義手の訓練に意欲的である一方で,集中困難で容易に感情的になり訓練が中断しがちであった.通院先の作業療法士と連携し,プログラムの呈示や刺激を制限するなどの環境設定を行うとともに,当該施設でも義手を使った訓練を取り入れてもらった.4歳時には,更衣や食事動作でも能動義手を使用し,その操作スキルと装着時間は増加していった.5歳8ヶ月時に手先具を随意閉じ式に変更した.遠隔地在住でありCOVID-19の流行により来院困難な期間が2年余り続いた.日常生活では作業用義手を使用し,他施設の作業療法で能動義手の練習を行っていた.8歳2ヶ月の来院時,成長に合わせた能動義手の操作練習やなわ跳び,自転車の練習を行った.訓練時の様子から児が筋電義手の訓練に必要な集中力を得たと判断し,児と両親の希望を再確認したうえで筋電義手の導入の検討を始めた.超音波画像診断で前腕骨周囲に筋腹を認め,さらに,操作に必要な筋電位が随意的に生じさせられることを確認し,筋電義手を導入可能と判断し処方に至った.
【考察】本児は,上肢形成不全と種々の障害を合併していたが,作業用義手から導入し,1年3ヶ月後に能動義手,6年10ヶ月後に筋電義手の導入に至った.小児筋電義手の導入時期については諸説あるが,今回は児の発達状況に合わせて義手の種類を変更し,約7年かけて筋電義手の導入に至った.本児は,早期から義手の装着習慣がついたこと,義手への興味や操作方法を理解でき,両手動作が定着したこと,初診時にはなかった前腕の随意的な筋収縮と筋電位を成長に伴い確認できたことが筋電義手導入につながった.また,両親が義手の訓練に時間を要すことを理解していたこと,他施設と連携して義手の訓練を行えたことが筋電義手の導入を可能にしたと考える.