[OD-3-5] 手関節屈筋群1電極による筋電義手操作を獲得した先天性上肢形成不全児2例
【はじめに】
筋電前腕義手は通常2個の電極を用い,手関節の伸筋群の収縮でハンドを開き,屈筋群の収縮でハンドを閉じる操作を行う.また,随意運動や指示理解が未発達な乳幼児期の上肢形成不全児では,1個の電極を伸筋群上に設置しハンドが開く操作のみを随意的に行うことから開始する場合が多い.今回,短断端かつ伸筋群の筋電位出力の検知が困難な前腕横軸形成不全の2例に対し屈筋群に1電極のみを設置した.そして練習方法の工夫により筋電義手操作の獲得に至ったため報告する.なお,本報告に際し症例及び保護者から同意を得た.
【症例紹介及び経過】
<症例1>先天性左前腕横軸形成不全の3歳女児.生後3日にリハビリテーション科医師が初診し,0歳3ヶ月時に受動義手を製作し外来作業療法(以下,外来OT)を開始した.1歳2ヶ月時に筋電義手の操作練習を開始した.初回と2歳1ヶ月時に再製作した筋電義手は伸筋群に1個の電極を設置していたが筋電位の採取に難渋し,また完成後のハンドの操作が不安定であった.そのため筋電位の採取位置を再検討した.断端部運動時の前腕筋群の共収縮と,超音波画像診断では屈筋優位に発達していることが明確となったため,筋電位の採取を屈筋群へ変更し筋電義手を再作製した.重量物の把持時に肘関節屈曲筋力が手関節屈筋群の筋収縮を誘発しハンドの誤動作が起こることが懸念されたが,電極の感度調整により誤動作を減少させ,積極的なおもちゃの把持訓練を実施することで,日常生活における筋電義手操作を習得できた.
<症例2>先天性右前腕横軸形成不全の3歳の女児.当院から新幹線で3時間以上要する遠隔地に居住しており,頻回な通院が困難である.居住地で通院している療育センターの医師より当院四肢形成不全外来を紹介され,2歳4ヶ月時に受動義手が処方された.義手の処方と製作・適合確認のために3回上京し,その都度1週間程度滞在してもらい短期集中的に外来OTを実施した.
2歳8ヶ月時に受動義手の使用が定着したことを確認し,筋電義手の導入に進んだ.超音波画像診断により伸筋は厚さ2mm,幅6mmと小さく,屈筋は断端末の皮膚を引き寄せる筋群があることを確認した.本児の筋電義手の電極位置については多職種で検討を行い,確実な筋収縮を得ることを優先し,屈筋群に1個の電極を設置した随意開きを選択した.短断端であることから電極位置が肘関節近位であったため,肘関節屈伸がハンド開閉操作に影響を与えていた.実生活での使用時に生じる課題を抽出するために,筋電義手を仮組みの状態で帰郷させ,約1ヶ月後の再来時に確認することにした.3回目の外来OT時,自宅での筋電義手の使用習慣はあったものの,肘関節伸展位ではハンドが開きにくく,屈曲位ではハンドが常に開いてしまいおもちゃの保持が困難な状況であった.そのため,肘関節伸展位での手関節掌屈,肘関節屈曲位での脱力練習を行い,肘関節と手関節の筋収縮の分離を諮った.その結果,肘関節屈曲位でもおもちゃを落とすことなく遊ぶことが可能となった.
【考察】
上肢形成不全児が日常生活の中で筋電義手を継続して使用するためには,児自身が義手を有用と感じる必要がある.幼児期では意図したタイミングで筋電義手を使用しておもちゃを把持し,かつ離せることが重要であり,またおもちゃが意図せず落下しないように把持し続けることが必要である.本症例のように短断端かつ伸筋群の発達が未熟な場合は,操作の確実性を優先し,従来とは異なる手関節屈筋群への1電極設置も選択肢となることが示唆された.ただし,成長発達に伴い伸筋群が発達し2電極への移行を検討する際は,運動学習の再構築が課題であると考える.
筋電前腕義手は通常2個の電極を用い,手関節の伸筋群の収縮でハンドを開き,屈筋群の収縮でハンドを閉じる操作を行う.また,随意運動や指示理解が未発達な乳幼児期の上肢形成不全児では,1個の電極を伸筋群上に設置しハンドが開く操作のみを随意的に行うことから開始する場合が多い.今回,短断端かつ伸筋群の筋電位出力の検知が困難な前腕横軸形成不全の2例に対し屈筋群に1電極のみを設置した.そして練習方法の工夫により筋電義手操作の獲得に至ったため報告する.なお,本報告に際し症例及び保護者から同意を得た.
【症例紹介及び経過】
<症例1>先天性左前腕横軸形成不全の3歳女児.生後3日にリハビリテーション科医師が初診し,0歳3ヶ月時に受動義手を製作し外来作業療法(以下,外来OT)を開始した.1歳2ヶ月時に筋電義手の操作練習を開始した.初回と2歳1ヶ月時に再製作した筋電義手は伸筋群に1個の電極を設置していたが筋電位の採取に難渋し,また完成後のハンドの操作が不安定であった.そのため筋電位の採取位置を再検討した.断端部運動時の前腕筋群の共収縮と,超音波画像診断では屈筋優位に発達していることが明確となったため,筋電位の採取を屈筋群へ変更し筋電義手を再作製した.重量物の把持時に肘関節屈曲筋力が手関節屈筋群の筋収縮を誘発しハンドの誤動作が起こることが懸念されたが,電極の感度調整により誤動作を減少させ,積極的なおもちゃの把持訓練を実施することで,日常生活における筋電義手操作を習得できた.
<症例2>先天性右前腕横軸形成不全の3歳の女児.当院から新幹線で3時間以上要する遠隔地に居住しており,頻回な通院が困難である.居住地で通院している療育センターの医師より当院四肢形成不全外来を紹介され,2歳4ヶ月時に受動義手が処方された.義手の処方と製作・適合確認のために3回上京し,その都度1週間程度滞在してもらい短期集中的に外来OTを実施した.
2歳8ヶ月時に受動義手の使用が定着したことを確認し,筋電義手の導入に進んだ.超音波画像診断により伸筋は厚さ2mm,幅6mmと小さく,屈筋は断端末の皮膚を引き寄せる筋群があることを確認した.本児の筋電義手の電極位置については多職種で検討を行い,確実な筋収縮を得ることを優先し,屈筋群に1個の電極を設置した随意開きを選択した.短断端であることから電極位置が肘関節近位であったため,肘関節屈伸がハンド開閉操作に影響を与えていた.実生活での使用時に生じる課題を抽出するために,筋電義手を仮組みの状態で帰郷させ,約1ヶ月後の再来時に確認することにした.3回目の外来OT時,自宅での筋電義手の使用習慣はあったものの,肘関節伸展位ではハンドが開きにくく,屈曲位ではハンドが常に開いてしまいおもちゃの保持が困難な状況であった.そのため,肘関節伸展位での手関節掌屈,肘関節屈曲位での脱力練習を行い,肘関節と手関節の筋収縮の分離を諮った.その結果,肘関節屈曲位でもおもちゃを落とすことなく遊ぶことが可能となった.
【考察】
上肢形成不全児が日常生活の中で筋電義手を継続して使用するためには,児自身が義手を有用と感じる必要がある.幼児期では意図したタイミングで筋電義手を使用しておもちゃを把持し,かつ離せることが重要であり,またおもちゃが意図せず落下しないように把持し続けることが必要である.本症例のように短断端かつ伸筋群の発達が未熟な場合は,操作の確実性を優先し,従来とは異なる手関節屈筋群への1電極設置も選択肢となることが示唆された.ただし,成長発達に伴い伸筋群が発達し2電極への移行を検討する際は,運動学習の再構築が課題であると考える.