第57回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-4] 一般演題:運動器疾患 4

Sun. Nov 12, 2023 9:40 AM - 10:40 AM 第6会場 (会議場A2)

[OD-4-5] 術後早期の痛みに対して認知行動療法を用いた作業療法実践により痛みや心理的要因に改善を認めた事例

原 竜生1,2, 平賀 勇貴3, 許山 勝弘1, 平川 善之1 (1.福岡リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.九州大学大学院医学系学府医療経営・管理学専攻, 3.福岡国際医療福祉大学医療学部)

【背景】本邦の疫学調査によると国民の15.4%が運動器の慢性疼痛であり,医療費の増加や治療満足の低さなどが報告され,社会や経済に大きな影響を与えている(Nakamura,et al,2011).
慢性疼痛の危険因子として,破局的思考や不安・抑うつなどの心理的要因があり(Vlaeyen,et al,2000),有効な介入として認知行動療法が挙げられている(Williams,et al,2012).そのため術後早期より,作業療法(OT)でも慢性疼痛の危険因子に対して,術後早期のCBTを用いた心理的介入の実践を構造化することが重要である.
【目的】本事例では,高位脛骨骨切り術後の疼痛により,破局的思考や不安などの心理的要因を認めた事例を通して,CBTを用いた具体的な実践を提示する.
【方法】OT開始時に目標達成のためCanadian Occupational Performance Measure(COPM)を用いた目標設定を実施し仕事復帰へ向けた①歩行が抽出され,重要度10,遂行度2,満足度2であった.各評価指標として,痛みはNumerical Rating Scale(NRS)を用いて,安静時2/10,歩行時7/10であった.不安と抑うつはHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を用いて不安13/21,抑うつ5/21であった.日常生活に対する自己効力感はModified Fall Efficacy Scale(MFES)を用いて74/140であった.疼痛生活障害はPain Disability Assessment Scale (PDAS)を用いて36/60点であった.本事例では,CBTの概念化を実施後,第1部(認知再構成),第2部(対処スキル),第3部(アクティブペーシング)などのCBTと作業療法を併用した.なお本研究は当院における倫理審査委員会の審査及び承諾を得た.
【経過】第1セクションでは,「歩くときに痛みが出る」という状況に対して,不安や焦りが80%,「もう歩けないかもしれない」という認知に対して認知再構成法を実施した.その結果,適応的思考には,「手術前は足を引きずっていたが今は引きずることなく杖で歩けている.手術前は痛くても好きなことを実施していた.」などが挙げられ,不安や焦りが60%と改善した.第2セクションでは,疼痛や不安状況での対処スキル獲得へ向けて対処リストを導入した.自己理解を促すため,面接を通して疼痛状況を時系列で振り返り,疼痛が出現するタイミングとそれによって生じる不安状況を整理した.また,疼痛状況が生じていない時間帯の活動や認知を外在化し,客観的に振り返りながら適切な対処行動を協議した.試行錯誤の結果,適切な疼痛管理が可能となり前向きな発言を認めたため実際の行動変容へ移行するよう提案し同意を得た.第3セクションでは,ADLや手段的 ADL練習を実施した.段階的に実施することで,患者は不安なく動作を遂行することが可能となった.その後,適切な行動活性化へ向けて活動日記を導入した.その結果,疼痛が増悪することなく,段階的に活動量を向上することが可能となった.必要動作を獲得したため,最終面接を実施し退院と同時にOTは終了となった.
【結果】COPMは遂行度,満足度共に6と向上した.NRSは安時痛が0/10,運動時痛が4/10と軽減した.HADSは不安0/21,抑うつ5/21であり不安,抑うつが軽減した. MFESは113/140点,PDASは13/60点と自己効力感と生活障害が改善した.また,CBTによる概念化では,痛み状況に対して「少しずつ良くなっている」といった認知となり気分が不安・焦り40%となった.
【結論】術後の痛みにより破局的思考や不安などの心理的要因が増悪し,能力低下が認められる事例において,CBTが目標達成を促進する可能性が示唆された事例である.本邦における術後早期のCBTを構造化するための入門的な知見である.