第57回日本作業療法学会

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一般演題

神経難病

[OE-1] 一般演題:神経難病 1

Fri. Nov 10, 2023 3:40 PM - 4:50 PM 第5会場 (会議場B2)

[OE-1-1] パーキンソン病患者に対する体性感覚キューの効果と対象者の歩行特徴との関連

佐藤 飛友悟1, 大柳 俊夫2, 仙石 泰仁3 (1.医療法人社団 一視同仁会 札樽・すがた医院, 2.札幌医科大学医療人育成センター, 3.札幌医科大学保健医療学部作業療法学科)

<はじめに>
 パーキンソン病(以下,PD)患者は,歩行能力が低下しやすく転倒リスクが高いことが報告されている(千田,2006)ことから,歩行支援の必要性が非常に高い患者である.これまでPD患者の歩行状態を改善させる支援として,従来から行われている運動機能の改善に加えて,歩行中に視覚や聴覚,体性感覚などの感覚キューを提示する方法が報告されている(Rochester,2005/Wegan,2006).これまでの報告では,視覚や聴覚キューの有用性を示す報告が多くあるが,体性感覚キューについては十分な検討が行われておらず,どのような特徴を示すPD患者に対して有効であるかは明らかではない.そこで本研究では,体性感覚キューの提示によって歩行状態が変化するPD患者の特徴について検証した.
<方法>
 対象者は,本研究に同意した在宅生活を送るYahr分類Ⅱ~ⅣのPD患者15名(73.1±6.0歳)とした.課題は半径1mの円の周囲を時計回りに2周歩行する円歩行とし,体性感覚キューを提示しない条件(以下;キューなし条件)と体性感覚キューを提示する条件(以下:キューあり条件)の2条件で課題を実施した.キューあり条件におけるキューの提示リズムはキューなし条件の歩調と同じリズムとした.なお,キューは各被験者の利き手の手関節部に装着した刺激発生装置から提示した.また,歩行状態を確認するためビデオカメラを用いて歩行動作を撮影した.分析では,円を半周歩いた後の1周分を分析範囲とし歩行動画より1周歩行するのに要した歩数と所要時間を算出し分析指標とし,キューなし条件に比べキューあり条件で歩数と所要時間の両方の値が減少した群と減少しなかった群に分け,各指標をMann–WhitneyのU検定を用いて群間比較した.有意水準は0.05とした.
< 結果>
各条件の歩数と所要時間を算出した結果,歩数はキューなし条件で26.0(20.0-37.0),キューあり条件で27.0(21.0-34.0)であった.所要時間(秒)はキューなし条件で15.4(10.5-21.7),キューあり条件で14.9(11.6-21.8)であった.次に,各個人でキューの効果を分析したところ,キューあり条件で歩数が減少した者は9名,所要時間が減少した者は7名,両指標とも減少した者は7名であった.この結果から両指標が減少した群(Ⅰ群:7名)と減少しなかった群(Ⅱ群:6名)に分け,各群のキューなし条件での歩数,所要時間を算出したところ,歩数はⅠ群が37(22.0-39.0),Ⅱ群が23(18.5-26.3),所要時間はⅠ群が16.8(10.7-22.9),Ⅱ群が12.5(10.2-19.4)であった.Mann–WhitneyのU検定の結果,Ⅰ群はⅡ群に比べキューなし条件の歩数が有意に多かった(歩数:p=0.035,所要時間:p=0.366).
<考察>
 本研究では半数の対象者で体性感覚キューにより歩数,所要時間の両指標が減少した.歩数が減少したことは歩幅が増加したことを意味し,音刺激をキューとした岡本ら(2007)の先行研究でもPD患者ではキューによって歩幅が増加したことが報告されており,異なる感覚モダリティのキューを用いた本研究においても同様の効果が得られることが明らかとなった.加えて,体性感覚キューの効果が得られた対象者はPD患者の中でも歩数が多い傾向にあった.この結果は,上野ら(1989)が指摘するPD固有のリズム形成障害による自然歩行中の歩幅の減少が背景にあることも考えられ,体性感覚キューをリハビリテーションとして用いる際の評価指標となる可能性があることが示唆された.