第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-1] 一般演題:がん1

2023年11月10日(金) 12:10 〜 13:10 第7会場 (会議場B3-4)

[OF-1-1] 化学療法を実施した造血器腫瘍患者に対する作業療法は倦怠感を減少させる

宮内 貴之1,2, 佐々木 祥太郎1, 佐々木 洋子1, 佐野 文明3, 種村 留美2 (1.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部, 2.神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域, 3.聖マリアンナ医科大学病院血液・腫瘍内科)

【背景】造血器腫瘍に対しては,積極的に化学療法が行われるが,倦怠感や嘔気,食欲不振など様々な副作用が生じる.なかでも,倦怠感は化学療法に伴って感じる症状として高い頻度で生じる.倦怠感への介入として理学療法で実施する運動療法が有効であると言われている.しかし,化学療法後に十分な運動療法を実施することが困難な者も多く,趣味活動や余暇活動を提供する作業療法が主となる者も少なくない.しかし,倦怠感のある者に対して作業療法を実施した報告は少なく,介入時期による差異の検討もなされていない.
【目的】入院中に化学療法を実施した倦怠感のある造血器腫瘍患者に対する作業療法の実施は,倦怠感を減少させることを明らかにすることである.
【方法】本研究は後ろ向きコホート研究である.2020年4月から2022年10月までに当院血液腫瘍内科に化学療法目的で入院し,作業療法依頼のあった62名のうち,初回評価時にCancer Fatigue Scale (CFS)が60点中19点以上と倦怠感があり,作業療法を実施した33名(男性16名,女性17名,年齢中央値78歳)を対象とした.評価項目は臨床背景因子と,筋力評価は握力,ADL評価はBarthel Index(BI),倦怠感の評価はCFS,QOLの評価はEQ5D-5Lを初回評価(介入前)と退院時評価(介入後)の2点を後方視的に調査した.分析は,介入前後の比較としてカイ二乗検定,対応のあるt検定,ウィルコクソンの符号付順位検定を行った.その後,作業療法開始した時期を化学療法実施前と実施後で2群に分別した.選択バイアスを最小とするために1:1の傾向スコアマッチング(年齢,性別,介入前BI)を行い,化学療法実施前群10名vs実施後群10名を抽出した後,(介入後)−(介入前)=Δとした2群間の差の検定を行った.統計解析はEZRを用い,有意水準は5%未満とした.倫理的配慮として,ヘルシンキ宣言に基づき,当院生命倫理審査委員会の承認を得た.本研究の研究同意は,オプトアウト形式を採用し,研究対象者および代理人が拒否する十分な機会を保障した.
【結果】対象の診断名は悪性リンパ腫15名,白血病6名,骨髄異形成症候群3名,多発性骨髄腫9名であり,入院日数は中央値51日であった.作業療法内容は創作活動や動画鑑賞,筋力トレーニングなど座位で実施する作業が主であった.介入前のBIは中央値80点,PSは中央値1と比較的ADLが保たれている者が多かった.介入前後ではBI(P=0.02)とCFS(P=0.04)合計で有意な差があった.一方,握力とEQ5D-5Lに有意な差はなかった(P>0.05).マッチング後の2群間の差の検定ではすべての指標で有意な差はなかった.しかし,実測値を見るとΔCFS合計では化学療法実施前群−3.80,実施後群−0.40であり,Δ身体的倦怠感では化学療法実施前群−2.70,実施後群1.10と実施前群で倦怠感の減少が大きかった.
【考察】化学療法を実施した造血器腫瘍患者への作業療法の実施は,倦怠感の軽減に繋がることが示唆された.また,作業療法を開始する時期による違いはなく,いずれの時期から作業療法が開始されても介入前後に倦怠感が減少した.このことから,化学療法を実施した造血器腫瘍患者への作業療法が倦怠感の減少に関係があると考えられた.