第57回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-1] 一般演題:がん1

Fri. Nov 10, 2023 12:10 PM - 1:10 PM 第7会場 (会議場B3-4)

[OF-1-3] 緩和ケア病棟入院患者に対して多職種で関わるアートセラピーグループについて

錦古里 淑1, 金井 菜穂子2, 菅野 絵理子1, 仁木 一順3, 松田 良信1 (1.市立芦屋病院, 2.富山大学付属病院, 3.大阪大学大学院薬学研究科)

【序論と目的】アートセラピーとは,描画や工作などを通して自分の思いや感情を表現し,心のケアを行う心理療法の技法のひとつである.グループで行う場合は,集団力動の効果も期待される.先行研究では緩和ケアを受けているがん患者に個別にアートセラピーを導入することで心理的ケアにつながったとする症例報告があるが,グループでの報告はない.そこで本研究では緩和ケア病棟におけるグループによるアートセラピーが身体症状・精神症状にどのような効果があるのかを明らかにすることを目的とした.また多職種が関わるアートセラピーグループにおいて,作業療法士はどのような関わりができるかということについて考察・検討を行った.
【倫理的配慮】本研究では対象者からインフォームドコンセントを得ており最大限の個人情報の保護と倫理的配慮を行っている.当院の倫理委員会の承認を得ておりCOIはない.
【方法】対象者:A病院緩和ケア病棟入院患者122名(男性20名女性102名平均年齢82.4±8.2歳)
期間:X年6月~X+5年1月(48回実施)
参加スタッフ:臨床心理士/公認心理師,作業療法士,薬剤師,医師,看護師,薬学部実習生
方法:緩和ケア病棟デイルームにて複数の入院患者が参加する1時間程度のアートセラピーセッションを月2回実施した.体調に応じて途中退席も可能とした.参加した入院患者には介入前後にエドモントン症状評価システム改訂版日本版(ESAS-r-J)を使用し,終末期によくみられる代表的な9つの症状(痛み,だるさ,眠気,吐き気,食欲不振,息苦しさ,気分の落ち込み,不安,全体的な調子)を0(なし)~10(最もひどい)の11段階で評価するよう依頼した.折り紙,様々な画材を用いた塗り絵,貼り絵等のアート課題は自由創作とし,「無条件の受容」が達成できるよう作品の優劣をつけるような声かけは行わないようにスタッフ間で共通認識を図った.
統計解析:介入前後のESAS-r-Jによる症状変化をWilcoxon符号付き順位検定で解析した.(p<0.05)
【結果】1回のセッションで2~5名の入院患者と多職種のスタッフが参加した.介入前後で痛み,吐き気の項目では差がみられなかったが,だるさ,眠気,食欲不振,息苦しさ,気分の落ち込みで有意に改善がみられた.また不安,全体的な調子でも改善の傾向がみられた.有意に悪化した項目はなかった.
【考察】緩和ケア病棟入院患者に対してグループによるアートセラピーを実施したが,痛みや吐き気といった局所と関連が強い身体症状に関しては改善がみられなかった.しかし,だるさ・眠気・食欲不振・息苦しさ・気分の落ち込みといった複合的な要因が関連すると考えられる項目に関しては有意に改善がみられ,不安や全体的な調子といった抑うつに関連する項目に関しても改善の傾向がみられた.以上の結果から,グループによるアートセラピーは患者の精神状態を安定させる可能性があることが明らかとなった.A病院でのアートセラピーグループでは「無条件の受容」があり,グループ参加者はどのような作品も自己表現として肯定的にグループのメンバーに受け入れられる.このことは,他者との交流において自分の今の気持ちを受け入れてもらったという受容体験に繋がり,心理的安心感を得ることができたのではないかと推測された.また,円背や巧緻運動障害等の身体的症状を複数持つ高齢の入院患者に対して,よりよいポジショニングやアート課題の段階付けなどについて,作業療法士が専門的な立場から援助を行うことで,円滑なグループ形成に寄与できる可能性が示唆された.