第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-1] 一般演題:がん1

2023年11月10日(金) 12:10 〜 13:10 第7会場 (会議場B3-4)

[OF-1-5] 乳がん術後6か月でのリンパ浮腫有病率とリンパ浮腫の有無によるADLとQOLの比較

上原子 愛菜1, 西村 信哉1,3, 三浦 裕幸1, 西村 顕正2, 津田 英一3 (1.弘前大学医学部附属病院リハビリテーション部門, 2.弘前大学医学部附属病院乳腺外科, 3.弘前大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座)

【緒言】乳がん術後の患側上肢リンパ浮腫は,肩関節可動域制限とともに代表的な合併症であり,その発生率は10~47%と報告されている.腋窩リンパ節郭清術,領域リンパ節への術後放射線療法,術後化学療法は発生に関与する因子とされている.リンパ浮腫の合併により上肢機能障害が生じ,生活の困難感も高くなることが報告されている.当院では乳がん患者への作業療法を入院中から開始し,上肢機能障害や生活の困難感がある患者に対しては退院後の補助療法実施中も継続して実施している.本研究の目的は,当院でのリンパ浮腫有病率を調査し,リンパ浮腫の有無によるADL,QOLの比較を行うことである.
【倫理的配慮】本発表に際し,対象症例にはヘルシンキ宣言に基づき説明し同意を得た.
【対象・方法】対象は2020年3月から2023年2月までに乳がんの診断で作業療法を実施し,術後6か月間評価が可能であった50名50肢(全例女性,平均年齢54.8±11.1歳,平均BMI 24.5±4.8)である.手術の内訳は乳房全切除術31名,乳房部分切除術19名であり,そのうち腋窩リンパ郭清術が39名,センチネルリンパ節生検術が11名に行われていた.術後に放射線療法を受けた患者は15名,化学療法を受けた患者は30名であった.リンパ浮腫診療ガイドラインを参考に,上腕,前腕,手関節,手部のいずれかの周径が健側と比較し2cm以上大きい場合をリンパ浮腫ありとし有病率を求めた.また,対象患者をリンパ浮腫の有無により2群に分け,DASH-JSSH機能/症状スコア(DASH),EORTC QLQ-C30の総括的QOLと活動的尺度(身体的活動,役割活動性,認識活動性,精神的活動性,社会的活動性)をMann–Whitney U 検定を用いて比較した.統計解析にはSPSS26.0Jを使用し,危険率5%未満を有意とした.
【結果】術後6か月間でのリンパ浮腫有病率は20%(10例10肢)であった.リンパ浮腫有り群/無し群における比較項目の結果は,DASH 11.4±6.5 / 8.3±12.1,EORTC総括的QOL 65.8±24.7 / 71.6±29.1,身体的活動性 83.3±14.5 / 84.1±20.3,役割活動性 85.0±18.3 / 87.6±20.0,認識活動性 83.3±20.8 / 82.9±21.1,精神的活動性 82.5±16.9 / 87.2±16.4,社会的活動性 85.0±26.6 / 91.5±16.2であった.すべての項目において2群間に有意差は認められなかった.
【考察】術後6か月時点でのリンパ浮腫有病率は20%であった.しかし,リンパ浮腫の有無によりDASH,EORTCの総括的QOL,活動的尺度に有意差は認められなかった.当院では入院時のみならず,退院後の術後放射線療法,化学療法実施時にも必要に応じて作業療法を継続し,リンパ浮腫への対応やADL指導,職業動作指導を行っている.これまでの報告ではリンパ浮腫が生じることによりADLやQOLが低下するとされているが,作業療法の実施内容に関しては不明な点が多い.本研究結果から,乳がん術後患者において退院後も継続的に作業療法を実施することで,リンパ浮腫の合併に関わらず同等のADL,QOLが獲得できることが示された.