第57回日本作業療法学会

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一般演題

がん

[OF-2] 一般演題:がん2

Fri. Nov 10, 2023 3:40 PM - 4:50 PM 第3会場 (会議場B1)

[OF-2-4] 家族を含めた多職種協同での退院支援により,治療後早期に自宅退院が可能となった膠芽腫症例報告

袴田 裕未1, 阿瀬 寛幸1, 北原 エリ子1, 藤原 俊之2 (1.順天堂大学医学部附属順天堂医院リハビリテーション室, 2.順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学)

【はじめに】膠芽腫の生存期間中央値は14.6ヶ月であり,ほぼ治癒不能な疾患である.治療においては生存期間の延長だけではなく,限られた期間におけるQOL向上・維持が重要視されている.今回,右前頭葉膠芽腫により左上下肢不全麻痺,高次脳機能障害を呈し,入院後に症状増悪を認めたが,家族を含め多職種と連携し,早期から退院後の環境調整を行うことで治療終了翌日に自宅退院が可能となった症例を経験した.入院期間中の作業療法(以下OT)介入について報告する.
【方法】OT単一症例報告とし,入院期間中のOT介入について報告する.報告に際しご本人から了承を得,倫理的指針に従い個人の特定がされない様,最大限配慮をした.
【症例紹介】
50代男性.X月Y日当院入院.Y日+1日,Y+7日に右前頭葉腫瘍摘出術を施行.病理結果より膠芽腫の診断となった.Y+8日よりOT開始,対象者の希望として自宅退院,復職が聞かれた.妻,3人の子供と同居しており日中は独居になるため,家族の希望としてはトイレに1人で行けるのであれば帰ってきてほしいとのことだった.自宅は3階建て,階段昇降が必須であった.
【経過と結果】介入当初,ADLはBarthel Index20点であった. 軽度左不全麻痺,軽度の認知機能低下,前頭葉機能低下,自発性低下,左上下肢の軽度の無視傾向を認めた.MMSE28/30点,FAB17/18点であった.座位ADLは促しで自立レベル,歩行・移乗・階段昇降・トイレ動作・入浴は軽介助を要した.Y+21日より術後療法(放射線化学療法)開始となった.Y+40日頃から車椅子のハンドリムに左手が巻き込まれる,左手が下敷きになったまま起き上がる,病棟での転倒等,自発性低下,左上肢の無視症状の増悪を認め,MMSE30/30点,FAB12/18点と評価上も前頭葉機能低下を認めた.歩行時の介助量増大,階段昇降時に左足を踏み外す等ADLの介助量も増大し,入院前と同様の環境では自宅退院が困難となることが予測され,自宅環境の変更や介助者の必要性について多職種,家族を含めての検討が必要となった.Y+42日目に多職種で開催されるカンファレンスにて病棟Ns,MSW,Drと対象者の現在のADL,予測される介助量について情報共有を行い,退院に向けての介入を開始した.自宅環境調整については病棟Nsに家族面会時に自宅環境を聴取するよう依頼した.MSWに家族への介護保険申請,必要な福祉用具についてケアマネージャーへの提案を行い,退院前日までに屋外用車椅子,トイレ・階段手すり,シャワーチェアが導入された.環境調整を行っていく中で,当初の家族の希望であったトイレ動作の自立は困難なことが予想されたが,情報を適宜共有していた妻が一時休職を決め,日中対象者の介助を行うこととなった.介助方法については担当PTと歩行時・階段昇降時の介助方法,転倒リスクについて検討し,紙面にまとめ渡すことで家族へ指導をした.Y+51日後療法終了.Y+52日自宅退院となった.退院時のBarthel Index65点であり,全ての動作にセッティングまたは付き添いによる促しが必要であった.退院後は家族の付き添いの元,自宅での生活が可能となり,自宅2階にある自室からリモートワークで復職も可能となった.
【考察】本症例は術後,治療期間中の症状増悪により,入院前と比較しADL低下を認め,自宅退院が困難になることが予測された.治療期間中から多職種に家族を含めて,対象者の希望や問題点を共有することで,治療終了に合わせた早期の自宅退院が可能になったと考える.また,膠芽腫は予後不良であり,急性期病院という医療現場において治療後早期の退院を検討していくことが対象者のQOL向上につながるのではないかと考える.