[OF-3-1] 周術期消化器がん患者における入院中の不安・抑うつに影響する因子
【背景】消化器がん術後は生活スタイルが変化する可能性が高く,周術期の作業療法(OT)実践においても生活課題や心の問題を把握することが求められる.周術期消化器がん患者の不安・抑うつに関する先行研究では,倦怠感や身体機能との関連が報告されている(小暮,2016).しかし,手段的日常生活動作(IADL)のデータが調査対象に含まれておらず,不安・抑うつに対する入院前の生活スタイルの影響が十分に検討されていない.
【目的】周術期消化器がん患者における入院中の不安・抑うつに影響する因子を,入院前のIADLに着目して分析し,OT実践で有益な視点を検討することを目的とした.
【方法】研究デザインは後方視的観察研究とした.2021年4月から2022年3月までに研究実施施設に入院した周術期消化器がん患者を対象とした.認知症等で,Frenchay Activities Index(FAI)とHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)が評価できなかった患者は除外した.FAI,術後7日目のHADS,動作時痛と倦怠感(Numerical Rating Scale),Standing Test for Imbalance and Disequilibrium,術前のFunctional Independence Measure(FIM),年齢,性別,術式,手術時間,出血量,術後1日目の血清アルブミン,C反応性タンパク,ヘモグロビン,歩行開始日,食事開始日をカルテから収集し検討した.統計解析はロジスティック回帰分析を使用した.従属変数は,HADS不安・抑うつのいずかで疑診(8点)以上を不安・抑うつ群,8点未満を非不安・抑うつ群とした.独立変数は,Mann-Whitney U検定,χ2検定を使用し,2群間比較で有意差のあるデータとした.すべての有意水準を5%とした.倫理事項:本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,研究実施施設倫理委員会の審査を受け承認された.
【結果】対象83名,年齢73.0(64.0-76.5)歳,男性44名・女性39名,在院日数14.0(11.5-23.0)日,大腸61名・胃21名・胆嚢1名,病期はstageⅠ23名・Ⅱ14名・Ⅲ29名・Ⅳ17名,開腹術46名・腹腔鏡37名であった.不安・抑うつ(31名)/非不安・抑うつ(52名)の2群間比較では,倦怠感(p<0.001),FAI下位項目の外出(p=0.002)と趣味(p<0.001)で有意差を認めた.ロジスティック回帰分析では,術後の倦怠感が強い方が,不安・抑うつになりやすい傾向であった(オッズ比1.79,95%信頼区間1.29-2.48,p<0.001).FAIでは,入院前に趣味を行う頻度が高い患者の方が,入院中に不安・抑うつを呈する結果となった(オッズ比2.60,95%信頼区間1.46-4.64,p=0.001).
【考察】ロジスティック回帰分析で,術後の倦怠感が強いこと,FAIでは趣味を行う頻度が高いことが因子として抽出された.倦怠感の影響は先行研究を裏づける結果であった.一方,IADLにおいて,入院前の生活で趣味を行う頻度が高い患者の方が,入院中に不安・抑うつを呈する結果は,本研究の新規性と考える.がんに罹患し,告知・入院・手術といった治療過程で,病前の生活とのギャップを感じ,「今まで通りの生活には戻れない」といった思いが影響したと推測した.周術期消化器がん患者に対するOTの役割の1つとして,患者が望む生活行為を実現する手段としての早期離床が報告されている(石井,2018).本研究の結果は,趣味も含め,患者が望む生活スタイルへ速やかに移行できるように支援する重要性と周術期消化器がん患者に対しOTを実施する意義を示唆するものと考えた.
【目的】周術期消化器がん患者における入院中の不安・抑うつに影響する因子を,入院前のIADLに着目して分析し,OT実践で有益な視点を検討することを目的とした.
【方法】研究デザインは後方視的観察研究とした.2021年4月から2022年3月までに研究実施施設に入院した周術期消化器がん患者を対象とした.認知症等で,Frenchay Activities Index(FAI)とHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)が評価できなかった患者は除外した.FAI,術後7日目のHADS,動作時痛と倦怠感(Numerical Rating Scale),Standing Test for Imbalance and Disequilibrium,術前のFunctional Independence Measure(FIM),年齢,性別,術式,手術時間,出血量,術後1日目の血清アルブミン,C反応性タンパク,ヘモグロビン,歩行開始日,食事開始日をカルテから収集し検討した.統計解析はロジスティック回帰分析を使用した.従属変数は,HADS不安・抑うつのいずかで疑診(8点)以上を不安・抑うつ群,8点未満を非不安・抑うつ群とした.独立変数は,Mann-Whitney U検定,χ2検定を使用し,2群間比較で有意差のあるデータとした.すべての有意水準を5%とした.倫理事項:本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,研究実施施設倫理委員会の審査を受け承認された.
【結果】対象83名,年齢73.0(64.0-76.5)歳,男性44名・女性39名,在院日数14.0(11.5-23.0)日,大腸61名・胃21名・胆嚢1名,病期はstageⅠ23名・Ⅱ14名・Ⅲ29名・Ⅳ17名,開腹術46名・腹腔鏡37名であった.不安・抑うつ(31名)/非不安・抑うつ(52名)の2群間比較では,倦怠感(p<0.001),FAI下位項目の外出(p=0.002)と趣味(p<0.001)で有意差を認めた.ロジスティック回帰分析では,術後の倦怠感が強い方が,不安・抑うつになりやすい傾向であった(オッズ比1.79,95%信頼区間1.29-2.48,p<0.001).FAIでは,入院前に趣味を行う頻度が高い患者の方が,入院中に不安・抑うつを呈する結果となった(オッズ比2.60,95%信頼区間1.46-4.64,p=0.001).
【考察】ロジスティック回帰分析で,術後の倦怠感が強いこと,FAIでは趣味を行う頻度が高いことが因子として抽出された.倦怠感の影響は先行研究を裏づける結果であった.一方,IADLにおいて,入院前の生活で趣味を行う頻度が高い患者の方が,入院中に不安・抑うつを呈する結果は,本研究の新規性と考える.がんに罹患し,告知・入院・手術といった治療過程で,病前の生活とのギャップを感じ,「今まで通りの生活には戻れない」といった思いが影響したと推測した.周術期消化器がん患者に対するOTの役割の1つとして,患者が望む生活行為を実現する手段としての早期離床が報告されている(石井,2018).本研究の結果は,趣味も含め,患者が望む生活スタイルへ速やかに移行できるように支援する重要性と周術期消化器がん患者に対しOTを実施する意義を示唆するものと考えた.