第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-3] 一般演題:がん3

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:20 第7会場 (会議場B3-4)

[OF-3-2] がん終末期における外出・外泊の可否に関わる因子の検討

阿部 康隆, 和智 雄一郎, 原 正紀 (厚生連長岡中央綜合病院リハビリテーション科)

【はじめに】がん終末期における外出・外泊が患者とその家族にとって有益であることは,すでに報告されている(吉澤明孝,1999).作業療法士(以下OT)が終末期がん患者と関わる中で外出・外泊の希望があった時,可能な限り住み慣れた場所で自分らしく過ごせるように,その希望を実現することは重要な目標となる.しかし,実際に外出・外泊を行えるか否かは,患者自身や周囲の状況により異なる.そこで,患者の状態及び状況が外出・外泊にどのように影響するかを調べることにより,がん終末期における外出・外泊の対応へ示唆が得られると考えた.
【目的】本研究の目的はがん終末期における外出・外泊の可否に関わる要因を検討することである.
【対象】対象は2019年4月1日より2020年3月31日の間にOTの介入があり,介入後2か月以内に看取りとなった終末期がん患者90名の内,外出・外泊の希望のあった38名(男性21名,女性17名,年齢71.1±13.3歳)とした.
【方法】研究デザインは後ろ向き観察研究とした.対象を外出・外泊実施群と非実施群に分割し,当院電子カルテより後方視的に収集したデータに対し,2群間比較を行った.データ取得のタイミングは外出・外泊の希望があった時点とし,複数の希望があった場合は最終時点とした.取得するデータは1:全身状態としてKarnofsky Performance Status(以下KPS),2:日常生活活動(以下ADL)としてBarthel Index(以下BI),3:症状コントロール状況としてSupport Team Assessment Schedule Japanese version(以下STAS-J)症状版22項目,4:酸素療法の有無,5:持続点滴の有無,6:配偶者の有無,7:同居家族人数,8:離床を伴うOTプログラム(以下離床)の有無とした.以上をMann-WhitneyのU検定及びFisherの正確検定,同居家族人数にはt検定を使用し,有意水準5%で解析を行った.本研究は当院倫理委員会の承認を得た後,実施した.
【結果】外出・外泊実施群は22名(男性10名,女性12名,年齢69.8±11.4歳),非実施群は16名(男性11名,女性5名,年齢73.0±15.8歳)であった.2群間比較の結果,KPS(p=0.002),BI(p=0.013),STAS-J症状版の便秘項目(p=0.002),配偶者の有無(p=0.005),離床の有無(p<0.001)において有意差を認めた.STAS-J症状版の他21項目(疼痛,痺れ,倦怠感,呼吸困難,咳,痰,嘔気,嘔吐,腹部膨満感,口渇,食欲不振,下痢,失禁,尿閉,発熱,眠気,不眠,うつ,せん妄,不安,浮腫),酸素療法の有無,持続点滴の有無,同居家族人数においては有意差を認めなかった.
【考察】今回,全身状態(KPS),ADL(BI),身体活動(離床,便秘),配偶者の有無で有意差が見られ,がん終末期における外出・外泊の可否に関わる因子に抽出された.一方,症状コントロール状況の多くは有意差がなく,因子として認められなかった.がん患者の全身状態は予後に関連するため,KPS低値で全身状態不良の場合,急変のリスクがあり,外出・外泊を困難にしたと考えられた.また,ADL,身体活動が良好である場合,患者・家族の外出・外泊への不安が軽減し,決断が容易になったことで,外出・外泊の実施に繋がったと考えられた.配偶者は,年齢から仕事等のある他家族よりも主介護者になる割合が多く,その有無が影響したと考えられた.以上より,がん終末期の外出・外泊の対応は,全身状態の良い早期から行うこと,可能な限りADL,身体活動を維持することが重要であり,症状コントロール状況の良否は必ずしもこだわらなくてよいことが示唆された.