第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

がん

[OF-3] 一般演題:がん3

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:20 第7会場 (会議場B3-4)

[OF-3-3] 頭頸部がん高齢者における術前の社会的フレイルが周術期の生活機能に及ぼす影響

三浦 裕幸1,2, 加藤 拓彦2, 山田 順子2, 西村 信哉1, 津田 英一3 (1.弘前大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.弘前大学大学院保健学研究科総合リハビリテーション科学領域, 3.弘前大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座)

【緒言・目的】
 社会的フレイル(Social Frailty:SF)は,社会的な繋がりが脆弱な状態を示し,身体,心理,認知的フレイルとの関連や相互性が指摘されており,作業療法を実施するうえで検討されるべき項目である.頭頸部悪性腫瘍全国登録によると頭頸部がん高齢者は増加傾向にあり,フレイル対策の重要性が報告されている(丹生,2018).しかし頭頸部がん高齢者の周術期対策においては,身体的フレイルの報告が多くSFの検討は少ない.本研究の目的は,術前のSFの有無による周術期の身体機能,生活機能,QOLの違いを明らかにし,周術期における作業療法の指針とすることである.なお,本研究は,本学医学研究科倫理委員会の承認(2020-041)を得て実施した.
【対象・方法】
 対象は2020年4月から2022年10月に,同意が得られ適格基準に該当する頭頸部がんと診断され頸部リンパ節郭清術が施行された21例34肢(男性11例女性10例,平均年齢72.0±7.5歳)とした.評価時期は術前と術後3ヶ月とした.SFの評価はMakizakoの基準を用い,術前2点以上をSF群,2点未満を非SF群に分類した.評価項目は,基本属性(年齢,性別,在院日数,手術時間,術後化学放射線療法の有無など),作業療法評価[罹患側肩関節自動可動域(肩ROM),罹患側肩関節外転筋力体重比(外転筋力体重比),BMI,Geriatric Nutritional Risk Index,骨格筋量指数(SMI),罹患側握力(握力),30秒椅子立ち上がりテスト(CS30),簡易版頸部郭清術後機能質問表(NDQ),Shoulder 36ADL(Sh36),EORTC QLQ C30総括的QOL(総括的QOL)]とした.作業療法は術前から開始し,術後は入院中のみならず,副神経麻痺による上肢機能障害やADL低下がある患者に対しては,退院後も継続的に実施している.解析は,評価時期毎における各評価結果の群間比較にはMann-Whitney U検定およびFisherの正確確率検定を,各評価結果における術前と術後の郡内比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を用いた(SPSS Ver.26,有意水準5%).
【結果】
 群間に有意差が認められた項目の平均値(SF群/非SF群)は,術前ではSMI (6.30/7.15kg/m2),握力(21.8/32.5kg),CS30 (13.1/19.1回),Sh36 (3.81/3.98),総括的QOL (38.0/63.2)であり,いずれもSF群が低値であった.術後3ヶ月では,群間に差は認められなかった.評価結果の郡内比較では,両群ともに術前に比べ術後3か月の肩ROM屈曲可動域,外転可動域,外転筋力体重比,NDQ,Sh36が低下し,非SF群ではこれらに加えて握力の低下が認められた(いずれもp<0.05).なお, SF評価の結果,3ヶ月後に非SFからSF となった者が1例いた.
【考察】
 社会的フレイルは,不活動リスクの増加や術後合併症,身体機能,QOL低下に関連しているとの報告がある(Netz,2013).本報告においてSF群は,非SF群と比較し術前のSMI,握力,持久力,ADL,QOLが有意に低く,術後3ヶ月ではこれらの評価項目が両群ともに低下したものの群間に有意差を認めなかった.このことから,術前は社会的フレイルが身体機能,活動,QOLを低下させ,術後は手術によって身体機能,ADL,QOLを更に低下させるが,術前からの作業療法継続が周術期におけるSFの影響を低減していることが示唆された.