[OH-1-2] 精神科デイケア利用後に一般雇用での就労を継続している当事者の経験の語り
【はじめに】現在精神科デイケアは多様に展開されており,就労を目標とする利用者が多い.しかしこれまでの研究では福祉的就労や就労トレーニングに関する研究が多く,デイケア利用後に一般雇用での就労を継続できている対象者への支援については未だ十分に明らかにされていない.また当事者の主観的な語りに焦点を当てた研究は少ない.そこで本研究では,若年層にあたる時期にデイケアを利用し,かつその後に一般雇用就労を継続している当事者の語りから,精神科デイケアでの就労支援における効果的な介入のあり方を明らかにすることを目的とした.
【方法】研究対象者は2012年以後に精神科デイケアを34歳までに3年未満の期間で利用し,デイケア終了後に一般雇用就労を6ヵ月以上継続した経験のある当事者とした.研究対象者には研究内容を書面及び口頭で説明し,文書にて参加の同意を得た.データ収集は2022年3月~9月に実施し,「現在の一般雇用就労継続に役立っているデイケア及びその後の生活の中での経験」について半構造的インタビューにて語っていただいた.語りの内容は対象者の同意を得て全てをICレコーダーで録音し,逐語録を作成した.収集したデータは修正版グラウンデッドセオリー・アプローチを用いて解釈し,分析ワークシートにより概念生成を行った.さらに生成された概念相互の関係を検討してカテゴリを作成し,カテゴリの相関関係を結果図としてまとめ,ストーリーラインを作成した.なお本研究は筆頭著者が所属する大学院の研究倫理審査会の承認を得て実施した.開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【結果】20~40代の男性7名,女性5名の計12名の対象者に協力を得た.精神科通院経験を開示して勤務している方が8名,フルタイム勤務者が8名,精神科医療を良好な形で終診している方が4名であった.全員が障害者雇用の概要を知っており,7名は障害者雇用と比較検討した上で一般雇用を選択していた.語られた内容を分析した結果,79の概念と18のカテゴリ,そこから『デイケア内での就労能力の基礎固め』と『社会におけるナチュラルサポートの自己獲得』の2つのコアカテゴリが生成された.
【考察】就労場面においては「他者との信頼構築や居場所の確保」といった社会に開けた外交的な側面と,内なる側面である「自己理解」が同時に重要であること,またその両者が密接に絡み合っていることを対象者の語りから見出すことができた.この両者を得るには対人交流における相互理解が必要であり,その基礎となるのが認知機能や社会認知の向上であると考えられる.今回対象者達からは相談や協力,交渉,先の見通し,援助要求といった高度な対人交流技能を用いた内容が語られ,その重要性が浮き彫りになった.また疾患特性を学ぶことで体調の改善を得ており,心理教育の重要性も示唆された.そして対人交流の中での相手の存在により役割が生じ,その役割を達成することで承認や賞賛を得て自己効力感が向上していた.対象者達はデイケアという集団の場でこれらを体験し,その後の社会生活でも何らかの集団においてこの体験を継続,発展させており,このことから発症初期の頃からの集団活動参加が重要であることが考察される. 以上のことから就労支援においては,必要な情報や各種プログラムを提供することは勿論のこと,対象者の今後の生活に見通しを持ち,対象者が社会において先々自ら誰かに相談して課題を解決していくために必要な「信頼構築」と「自己理解」の基礎作りをサポートすることが就労継続に有用な影響を与える可能性が示唆された.
【方法】研究対象者は2012年以後に精神科デイケアを34歳までに3年未満の期間で利用し,デイケア終了後に一般雇用就労を6ヵ月以上継続した経験のある当事者とした.研究対象者には研究内容を書面及び口頭で説明し,文書にて参加の同意を得た.データ収集は2022年3月~9月に実施し,「現在の一般雇用就労継続に役立っているデイケア及びその後の生活の中での経験」について半構造的インタビューにて語っていただいた.語りの内容は対象者の同意を得て全てをICレコーダーで録音し,逐語録を作成した.収集したデータは修正版グラウンデッドセオリー・アプローチを用いて解釈し,分析ワークシートにより概念生成を行った.さらに生成された概念相互の関係を検討してカテゴリを作成し,カテゴリの相関関係を結果図としてまとめ,ストーリーラインを作成した.なお本研究は筆頭著者が所属する大学院の研究倫理審査会の承認を得て実施した.開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【結果】20~40代の男性7名,女性5名の計12名の対象者に協力を得た.精神科通院経験を開示して勤務している方が8名,フルタイム勤務者が8名,精神科医療を良好な形で終診している方が4名であった.全員が障害者雇用の概要を知っており,7名は障害者雇用と比較検討した上で一般雇用を選択していた.語られた内容を分析した結果,79の概念と18のカテゴリ,そこから『デイケア内での就労能力の基礎固め』と『社会におけるナチュラルサポートの自己獲得』の2つのコアカテゴリが生成された.
【考察】就労場面においては「他者との信頼構築や居場所の確保」といった社会に開けた外交的な側面と,内なる側面である「自己理解」が同時に重要であること,またその両者が密接に絡み合っていることを対象者の語りから見出すことができた.この両者を得るには対人交流における相互理解が必要であり,その基礎となるのが認知機能や社会認知の向上であると考えられる.今回対象者達からは相談や協力,交渉,先の見通し,援助要求といった高度な対人交流技能を用いた内容が語られ,その重要性が浮き彫りになった.また疾患特性を学ぶことで体調の改善を得ており,心理教育の重要性も示唆された.そして対人交流の中での相手の存在により役割が生じ,その役割を達成することで承認や賞賛を得て自己効力感が向上していた.対象者達はデイケアという集団の場でこれらを体験し,その後の社会生活でも何らかの集団においてこの体験を継続,発展させており,このことから発症初期の頃からの集団活動参加が重要であることが考察される. 以上のことから就労支援においては,必要な情報や各種プログラムを提供することは勿論のこと,対象者の今後の生活に見通しを持ち,対象者が社会において先々自ら誰かに相談して課題を解決していくために必要な「信頼構築」と「自己理解」の基礎作りをサポートすることが就労継続に有用な影響を与える可能性が示唆された.