第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-1] 一般演題:精神障害 1

2023年11月10日(金) 12:10 〜 13:10 第5会場 (会議場B2)

[OH-1-5] 地域在住統合失調症患者の食事状況に関する探索的研究

阿部 真依1, 三島 健太郎2, 佐藤 潮2, 伊佐次 光莉1, 星野 藍子1 (1.名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻, 2.医療法人静心会桶狭間病院藤田こころケアセンター)

【序論】
 統合失調症患者は活動性の低下,不健康な食生活,抗精神病薬の影響などにより,メタボリックシンドロームや糖尿病,心血管疾患などの疾患を発症しやすく平均寿命が著しく短い.このような健康課題への対策としてライフスタイル,特に食事への介入が注目されている.食事は単に栄養摂取というだけでなく,活動や参加と相互に関係している.また,作業療法では,個人にとっての作業の意味を考えることで,作業を対象者の支援に活かしている.したがって,統合失調症患者の食事状況を多面的に把握することは,食事介入に新しい視点をもたらすと共に食事を用いたより効果的なリハビリテーションの検討に有用であると考えられる.しかしながら,統合失調症の食事に関する研究は多くが栄養素やエネルギー摂取量に着目したものであり,活動や参加の面で調査した研究はない.また,食事状況と健康に関する研究もほとんど行われておらずその実態は明らかになっていない.
【目的】
 地域在住の統合失調症患者の食事状況を活動・参加の視点で捉えその特徴を明らかにするとともに,食事状況と主観的な健康や食事に対する評価との関係を明らかにする.
【方法】
 自記式のアンケートとデジタルカメラを用いた食事調査による横断研究を実施した.統合失調症群と非統合失調症群において,3日間(平日/デイケアがある日 2日,休日/デイケアがない日 1日)の食事記録を実施し,その後,WHOQOL-26,食事満足度, Temple University Community Participation Measure (TUCPM) のデータを収集した.食事の写真データからは,食事管理アプリ『あすけん』を用いて,食事品目数を抽出した.また,食事記録票からは食事人数,間食・外食回数のデータ抽出し,これらの食事関連項目について,ウェルチのt検定により2群比較を行った.さらに,食事関連項目とWHOQOL-26,食事満足度,TUCPMで得られたデータについて,相関分析を行い,ピアソンの積率相関係数またはスピアマンの順位相関係数をもとめた.さらに,有意な相関がみられた項目においては,下位項目との相関分析も実施した.
【結果】
 対象者数は統合失調症群が10名,非統合失調症群が19名であった.2群比較では,3日間合計品目数のうち昼食,夕食,合計において,統合失調症群が有意に多い結果となった.また,食事人数においては,朝食人数以外の項目において,統合失調症群が有意に少ない結果となった.相関分析では,統合失調症群において,休日の合計平均品目数と平均QOL値との間に正の相関がみられた.一方,非統合失調症群では,3日間の夕食平均品目数,合計平均品目数と平均QOL値との間で正の相関がみられた.食事品目数とQOL下位項目との相関では,非統合失調症群では「社会的関係」において正の相関がみられたのに対し,統合失調症群では有意な相関がみられなかった点が特徴的であった.
【考察】
 統合失調症群では,デイケアの弁当や配食サービスにより,健康的な食事摂取ができている.しかし,QOLに関連するのは自由度の高い食事であったことから,栄養面でのサポートは食事選択の裁量権や活動・社会参加の機会を奪う可能性あると示唆された.また,統合失調症群では孤食が多く,食事が他者交流の機会となりえていないことが示唆された.栄養面に考慮しつつ,食事に対する充実感や自主性を維持できるような支援方法を考えることや,共食を促進するような環境設定が,今後の食事支援において重要であると考えられる.