[OH-4-4] アルコール依存症を抱える患者における最大一歩幅の見積もり誤差と身体機能との関係
【はじめに】
アルコール依存症(以下,AL症)患者に対し,専門医療機関ではAL症リハビリテーションプログラム(以下,ARP)の一環として,作業療法(以下,OT)が行われている.身体面の回復は退院後の生活に向けて重要であり,OTでは様々な身体活動を通して,ALの過剰摂取により低下した体力の回復を目指している.患者の中には自身の体力や身体認識について過大もしくは過小に評価している者が少なくなく,そのような患者ほど体力の回復に時間を要し,ケガのリスクも高い印象をもっていた.さらにそこへアルコール問題との向き合い方も影響を与えている印象をもっていた.そこで,現在行っている客観的な指標である体力測定に加え,身体認識に関する測定指標およびアルコール問題の認識について評価を行うことで,回復の手助けとなる示唆が得られるのではないかと考えた.
【目的】
本研究の目的はAL症患者の運動機能と身体認識,アルコール問題の認識について分析を行い,プログラムを検討する上での新たな知見を得ることである.
【方法】
対象は内科病棟での解毒期間を終えた成人男性のAL症患者のうち,本研究の主旨を説明し,同意が得られた者を対象とした.そのうち,整形外科疾患や重篤な肝機能障害を合併している者や認知機能の著しい低下により研究内容の理解が難しい者を除外した.
診療録より性別,年齢,BMI,飲酒期間,認知機能(MMSE),入院回数,合併症,血液検査数値を収集した.さらに体力測定により握力,長座体前屈,閉眼片足立ち,反復横跳び,最大一歩幅(予測値と実測値およびその誤差)を評価し,身体感覚尺度およびアルコール依存に対する問題意識と治療に対する動機づけの程度を評価するSOCRATESについて対象者より自記式で回答を得た.これらの評価はARP開始時および終了時に実施した.本研究は,久里浜医療センター研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】
全ての評価を不足なく行えた患者87名を最大一歩幅の誤差が小さかった「誤差小群」と誤差の大きかった「誤差大群」の2群に分け分析を行った.誤差小群は46名,誤差大群41名であった.誤差小群と比較して,誤差大群は年齢が高く飲酒期間が統計的に有意に長かった.また体力測定では誤差小群が体前屈と片足立ち,反復横跳びにおいてARP前後で有意な改善が認められたのに対し,誤差大群は反復横跳びのみの改善にとどまった.
【考察】
最大一歩幅の誤差が小さい誤差小群に比べ,誤差が大きい誤差大群では,体力測定において有意な改善が認められた項目数がわずかであり,身体機能の回復に時間を要すことが予測された.先行研究において運動機能に関するボディイメージが良好であるほど,治療予後が良好であることが報告されている.ARP開始時に身体認識の誤差をスクリーニングすることは,体力改善のしにくさを予測する因子となり,通常のARPに加えて身体機能評価やトレーニングなど個別的な関わりを必要とする患者を抽出する助けとなるのでないかと考える.本研究は入院時の横断的な調査にとどまるため,今後退院後の予後を含めた縦断的な調査が必要と考える.
アルコール依存症(以下,AL症)患者に対し,専門医療機関ではAL症リハビリテーションプログラム(以下,ARP)の一環として,作業療法(以下,OT)が行われている.身体面の回復は退院後の生活に向けて重要であり,OTでは様々な身体活動を通して,ALの過剰摂取により低下した体力の回復を目指している.患者の中には自身の体力や身体認識について過大もしくは過小に評価している者が少なくなく,そのような患者ほど体力の回復に時間を要し,ケガのリスクも高い印象をもっていた.さらにそこへアルコール問題との向き合い方も影響を与えている印象をもっていた.そこで,現在行っている客観的な指標である体力測定に加え,身体認識に関する測定指標およびアルコール問題の認識について評価を行うことで,回復の手助けとなる示唆が得られるのではないかと考えた.
【目的】
本研究の目的はAL症患者の運動機能と身体認識,アルコール問題の認識について分析を行い,プログラムを検討する上での新たな知見を得ることである.
【方法】
対象は内科病棟での解毒期間を終えた成人男性のAL症患者のうち,本研究の主旨を説明し,同意が得られた者を対象とした.そのうち,整形外科疾患や重篤な肝機能障害を合併している者や認知機能の著しい低下により研究内容の理解が難しい者を除外した.
診療録より性別,年齢,BMI,飲酒期間,認知機能(MMSE),入院回数,合併症,血液検査数値を収集した.さらに体力測定により握力,長座体前屈,閉眼片足立ち,反復横跳び,最大一歩幅(予測値と実測値およびその誤差)を評価し,身体感覚尺度およびアルコール依存に対する問題意識と治療に対する動機づけの程度を評価するSOCRATESについて対象者より自記式で回答を得た.これらの評価はARP開始時および終了時に実施した.本研究は,久里浜医療センター研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】
全ての評価を不足なく行えた患者87名を最大一歩幅の誤差が小さかった「誤差小群」と誤差の大きかった「誤差大群」の2群に分け分析を行った.誤差小群は46名,誤差大群41名であった.誤差小群と比較して,誤差大群は年齢が高く飲酒期間が統計的に有意に長かった.また体力測定では誤差小群が体前屈と片足立ち,反復横跳びにおいてARP前後で有意な改善が認められたのに対し,誤差大群は反復横跳びのみの改善にとどまった.
【考察】
最大一歩幅の誤差が小さい誤差小群に比べ,誤差が大きい誤差大群では,体力測定において有意な改善が認められた項目数がわずかであり,身体機能の回復に時間を要すことが予測された.先行研究において運動機能に関するボディイメージが良好であるほど,治療予後が良好であることが報告されている.ARP開始時に身体認識の誤差をスクリーニングすることは,体力改善のしにくさを予測する因子となり,通常のARPに加えて身体機能評価やトレーニングなど個別的な関わりを必要とする患者を抽出する助けとなるのでないかと考える.本研究は入院時の横断的な調査にとどまるため,今後退院後の予後を含めた縦断的な調査が必要と考える.