第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害/MTDLP

[OH-4] 一般演題:精神障害 4

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第7会場 (会議場B3-4)

[OH-4-5] 精神科作業療法での参加状況がせん妄改善に与える影響

野原 卓也1, 足立 海月1, 塩田 繁人1, 板垣 圭2, 三上 幸夫3 (1.広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門, 2.広島大学病院精神科, 3.広島大学病院リハビリテーション科)

1)序論と目的
 せん妄は,認知症の発生率を高め,転倒や褥瘡などの合併症を増加させ,入院期間を延長し,死亡率も高める. 2020年度の診療報酬改定でせん妄ハイリスクケア加算が新設されたことからもせん妄への対策は重要であることがわかる.椛島らは,総合病院入院中にせん妄を併発した患者に対するリエゾンチームによる精神科作業療法のせん妄改善に対する有効性を報告している.精神科作業療法は,集団療法であるがせん妄患者の集団作業療法の参加状況の差によってせん妄に対する精神科作業療法の有効性を示した報告は見当たらない.広島大学病院(以下当院)では,2020年度からせん妄と認知症患者を対象に精神科リエゾンチームによる精神科作業療法を開始した.本研究の目的は,せん妄と診断され精神科作業療法を実施した患者を対象に集団作業療法の参加状況を中心にせん妄改善に与える因子を調査することである.
2)方法
 2022年10月~2023年1月に当院に入院し,精神科作業療法の指示の病名がせん妄であった患者71例を対象候補者とした.研究デザインはケースコントロール研究であり,せん妄の重症度について精神科作業療法開始・終了時の日本語版ニーチャム混乱/錯乱スケール(以下J-NCS)で評価し,1点以上改善した群を「改善があった群」,変化が0点以下を「改善がなかった群」とした.診療録より年齢,性別,依頼元診療科の主病名(ICD10章分類)を調査し,集団作業療法の参加状況については,精神科作業療法に参加した毎に浅野の集団作業療法参加状況の指標(1~7)を用いて評価し,その中央値が3未満を低い水準群,3以上を高い水準群とした.1回のみ参加,開始時J-NCSが25点以上,途中で疾患症状の悪化等で参加不能となった患者は除外した.データ分析は,SPSS ver. 27を使用し,有意水準は5%未満とした.対象の背景に対して記述統計量,J-NCSの改善があった群と改善がなかった群間で年齢についてマンホイットニーのU検定を行い,性別,依頼元診療科の主病名,集団作業療法の参加状況の低い水準群・高い水準群についてカイ2乗検定あるいはフィッシャーの検定を行った.本調査の実施にあたり,広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得た.(承認番号:E-2408)
3)結果
 対象者は47名となり,J-NCSの改善があった群は31名(66.0%),改善がなかった群は16名(34.0%)であった.両群の間で年齢と性別,依頼元診療科の主病名(ICD10章分類)による有意差はなかった.一方で,集団作業療法の参加状況の低い水準群(12名,25.5%)・高い水準群(35名,74.5%)については,有意な差が得られた(P=0.012,φ=0.403).残差分析の結果,J-NCSの改善があった群は参加状況が有意に高い水準であることが,およびJ-NCSの改善がなかった群は有意に参加状況が低い水準であることが示された.
4)考察
 この度の調査結果から,せん妄患者に対する精神科作業療法においてJ-NCSの改善には年齢,性別,依頼元診療科の主病名は関係なく,集団作業療法の参加状況が影響することが示唆された.したがって作業療法士は,せん妄患者の特徴である認知機能障害の変動に対して適宜環境を整え,興味・関心に合わせた作業を用いることにより集団作業療法の参加状況の水準を高め,せん妄の改善を促すことが求められる.今後の課題としては,せん妄の因子と考えられている睡眠や薬物療法など調査項目を増やして検討していく必要がある.