第57回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

発達障害

[OI-1] 一般演題:発達障害 1

Fri. Nov 10, 2023 1:20 PM - 2:20 PM 第5会場 (会議場B2)

[OI-1-1] 高等学校の通級指導におけるCognitive Orientation to daily Occupational Performance(CO-OP)の実践

倉澤 茂樹1, 立山 清美2, 田中 善信1, 塩津 裕康3 (1.福島県立医科大学 保健科学部 作業療法学科, 2.大阪公立大学大学院 リハビリテーション研究科, 3.中部大学 生命健康科学部 作業療法学科)

【序論】Cognitive Orientation to daily Occupational Performance (CO-OP)アプローチはクライエントが解決したい課題に対し,認知戦略を用いスキルの獲得を目指す課題指向型アプローチである.近年,高等学校では多様な学びの場を提供するために通級による指導(以下,通級指導)がはじまっている.個別支援の知識と技術を有する作業療法士(以下,OT)の参画が期待されているが研究報告はほとんどない.
【目的】本報告の目的は,高等学校での通級指導においてCO-OPの適用を検討することである.なお,報告に際し,書面によって本人・保護者および担当教諭の同意を得ている.
【方法】対象:高等学校(進学率約50%)にて通級指導(週に1限)を受ける2年生の男性.これまで発達に関する診断はない.OT評価:眼球運動は斜め方向で円滑さを欠き,年齢適応外のため1部実施したフロスティグ視知覚発達検査より,軽度の視空間認知障害が類推された.自己評価による行動チェックリスト(YSR):「不安/抑うつ」「社会性の問題」「思考の問題」「注意の問題」「攻撃的行動」の領域で臨床域を示した.介入:OTは月1回,6ヵ月にわたり通級指導に参加しCO-OPを実践した.カナダ作業遂行測定(COPM)で本人が重要であるとした3つの課題(①:聞き間違えをなくす,②:数学の試験に合格する,③:部活に新入生を1名入れる)について取り組むことを確認し,ゴールを設定した.1セッションの流れとして,初めに直近1週間の取り組み状況や成果を確認し(Check),OTによるガイドを加えながらあらたな認知戦略(Plan)を検討し,その認知戦略を宿題として次回までに実践(Do)してもらった.OTが参加しない通級指導では担当教諭がCO-OPを実施し,その経過を次回OTの訪問時に確認した.
【結果】介入前後のCOPMは①では遂行度3→10,満足度2→10となり,本人が設定したゴール(週2回未満の聞き取りミス)を達成した.②は遂行度1→4,満足度1→4であり,③は遂行度5→1,満足度5→3となった.また,介入後のYSRは「注意の問題」が臨床域,「不安/抑うつ」で境界域を示したが,他の領域は正常域であった.
【考察】①では実際の状況を再現することで認知戦略(耳を傾ける,最後まで話を聞く)を立てることが可能となった.②では実際に試験問題を見直すことで,「式の解き方が浮かばなかった.」との言葉を引き出し,OTからの「物を作るときに手順が分からない時はどうする?(ガイド)」との問いに,「図面やスマホの動画をみる.」と答え,試験勉強の段階で解き方の順序を書いて覚えるとの認知戦略に至った.②はゴール達成していないが,本人は笑顔で「少しだけ点数が足りなかったが,この作戦は良さそう.他の科目の成績も上がった.」と転移を示唆する発言も認められた.なお,③について遂行度と満足度が1ポイント低下したが,認知戦略が「背中をみせる」「あせらずじっと待つ」であることから,緊急性や優先度が低下したことが影響したと考える.YSRが多くの領域で改善したが,担当教諭からも「明るくなり,教員に相談することが増えた.」「授業中,他の生徒が騒いでいてもいら立つことなく過ごせている.」との話がであった.CO-OPによって問題解決型の思考への変化や自己効力感が高まったのかもしれない.
【結論】本事例において高等学校の通級指導でのCO-OPアプローチの適応可能性が示唆された.
本報告は令和4年度科学研究費補助金(基盤研究C:22K02749)により,助成を受けて実施した.