第57回日本作業療法学会

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一般演題

発達障害

[OI-1] 一般演題:発達障害 1

Fri. Nov 10, 2023 1:20 PM - 2:20 PM 第5会場 (会議場B2)

[OI-1-3] 地域専門機関で有効な発達障害者相談支援システムの開発

関森 英伸1,2, 渡邉 清美1, 益子 史歩理3, 小澤 巴菜3, 谷口 敬道2 (1.国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科, 2.国際医療福祉大学大学院, 3.国際医療福祉リハビリテーションセンターなす療育園)

【はじめに】
 本研究の目的は,ICTを活用した『発達障害者相談支援システム』の開発である.筆者はこれまで9年に渡り,地域専門機関(以下医療機関A)で外来作業療法を実施した発達障害者・保護者114 組を対象に,社会参加状況を中心とした追跡調査を実施してきた.その結果から発達障害者の社会不適応を未然に防ぐシステム開発を目指し,保護者の“困りごと”の整理および“解決方法”の収集を行い,本学会で経過報告してきた(関森2020,2022).今回,これまで収集・整理したデータから『困りごと解決システム mama and ... 』を開発し,当事者への試用を開始したため経過と課題を報告する.なお本報告は,対象者の同意等,倫理的配慮のもと実施している.
【方法】
 本システムは,保護者が日々の子育てにおいて皆の力を活用して我が子の“困りごと”を解決していくことを目指し開発された.スマートフォンから気軽にアクセスでき,同じ医療機関Aを利用していた先輩保護者の遭遇した“困りごと”と“解決方法”が閲覧でき,ユーザー登録することで自らも“解決方法”を投稿することが可能となる.研究対象者は,医療機関Aの待合の研究掲示,または追跡調査協力者へのメール案内を通して本システム利用に興味を示した135名(医療機関Aを利用している新規希望者74名,研究継続者61名).研究計画に同意を得た方にシステム利用マニュアルを送付し,運用第1期(2022.4~8)に本システムを利用していただいた.運用期間後にアンケート回答を依頼し,その回答をもとに有効性や課題を検討した.
【結果】
 運用第1期のシステム利用状況総数は,サイト内の閲覧数44,272であった.また,システム内のユーザー登録者は59名であり,新規投稿数は13名より25件あった.アンケート回答者は76名(母親72名,父親4名),そのうちシステム利用者は48名(63.2%)で全員母親であった.システム利用者48名について,役立ち度では38名(79.2%)が役に立ったと回答した.また,システム利用後の安心感では25名(52.2%)が安心に繋がったと回答した.「システムが改善された際,改めて使用してみたいか」という本システムへの期待を確認する質問では76名中75名(98.7%)が「使ってみたい」と回答した.システム利用後の自由記載では「共感できる投稿もあったが,自分の困りごとは投稿内容になかった」,「ネットで調べたらわかる位の内容だった」,「学校に関連する解決方法や情報が欲しい」等,投稿内容や情報量についての課題とともに,「ログインやユーザー登録が面倒だった」,「困りごとを探すのに見つけづらく見づらかった」等,システムの利便性についての課題が散見された.
【考察】
 当事者への『困りごと解決システム mama and ... 』の試用を開始し,一定の閲覧数が確認され,また,利用者からはシステム利用前より『安心した』,『役に立った』等,これまでの追跡調査を通して得た保護者の支援ニーズに部分的に応える結果を得た.しかし,本システム利用者数,ユーザー登録者数,利用者の声から新たな課題(利用・登録者数および子育て経験の“知”の蓄積の課題・限界,システム利便性)が明らかとなった.発達障害者・保護者支援について,発達障害者支援法では「発達障害者の家族その他の関係者に対し,相談,情報の提供及び助言,発達障害者の家族が互いに支え合うための活動の支援その他の支援を適切に行うよう努めなければならない」と定められている.我々は本システム改善後の利用者の期待を励みに,対象者へのより有効な支援提供を目標に,今後も利用者ニーズに合わせた支援システムの質の向上を目指していく.