[OI-2-4] 発達障害児における複数の遊具を用いた運動時の自律神経活動変化
【序論】
発達障害児(発達児)の作業療法において,ぼーっとしているまたは落ち着きがなく覚醒の障害が疑われる児を目にすることが多い.作業療法の遂行には一定の覚醒水準の維持が必要であり,覚醒水準は前庭・固有感覚等の適切な感覚処理と関連している.しかし発達障害においては,報告されている感覚処理の障害が覚醒水準の調節障害を引き起こし,作業療法の効果に影響する可能性がある.覚醒水準を評価する方法には心拍変動(HRV)解析があり,心拍間隔の揺らぎを分析し,自律神経活動を介して覚醒水準を評価できる.HRVの周波数分析指標であるHFは副交感神経活動を反映し,低覚醒水準で増加し,高水準で低下.LF/HFはその逆の変化を呈する.これまで発達障害を対象としたHRV検査を行った研究はあるが,安静時や机上課題時であり,覚醒の調節がより必要となる運動中および運動前後の測定を用いた研究は少ない.本研究では,遊具を用いた運動時に,安静時および運動中の発達児の覚醒水準を,HRV解析を用い,定型発達児(定型児)との比較を踏まえ,自律神経の側面から客観的に評価した.
【目的】
発達児における遊具毎および運動前後の安静時の自律神経活動の変化を評価し,適切な覚醒水準への調整やパフォーマンス発揮を可能にするプログラム構成の一助とすることを目的とした.
【方法】
対象は発達児8名(発達群,平均5.1±0.9歳,男児6名・女児2名)および定型児8名(定型群,平均4.9±0.9歳,男児4名・女児4名)とした.発達児の診断は全例自閉症スペクトラム障害(DSM-5)であった.遊具はトランポリン,バランスボード,オーシャンスイングを用い,各3分間実施し,運動開始前および終了後と遊具の切り替え時に安静時間を設けた.児の胸部にワイヤレス心電計(RF-ECG,GM3社)を装着して,運動の開始前安静から終了後安静まで連続的にHRVをパソコンに記録し,HR(心拍数),HF(副交感神経),LF/HFおよびLF/(LF+HF)(覚醒と関連)の各指標を算出した(Bonaly Light,GMS社).感覚プロファイル(SP)の記載を保護者が行った.また,セラピストがVisual Analog Scale(VAS)で覚醒や集中等を評価した,統計解析は,群間比較にはマン・ホイットニー検定,遊具間比較にはフリードマン検定,指標間の相関にはスピアマンの相関係数を用いた.
【倫理的配慮】
研究内容は所属機関の倫理員会により承認された.また保護者に研究内容の説明を行い,研究参加の同意を文書で得た.
【結果】
SPの点数に群間差はなかった.トランポリン運動時のLF/HFに定型群>発達群,バランスボード運動時のLF/(LF+HF)に定型群>発達群の有意差(p<0.05)を認めた.終了後安静時では,発達群のHFが有意に高かった (p<0.05).SPに関しては,定型群でバランスボード運動時のHFと前庭覚(r=0.74,p<0.05),LF/HFと身体の位置や動きに関する調整機能(r=-0.77,p<0.05)に有意な相関を認めたが,発達群では関連は認められなかった.また両群で運動の調整機能とバランスボード運動時のLF/HF,LF/(LF+HF)は逆向きの有意な相関(p<0.05)を呈した.VASでは,バランスボード運動時に定型群では注意集中とLF/(LF+HF)に有意な相関(r=0.80,p<0.05)を認めた.
【考察】
発達群はトランポリンおよびバランスボード運動時に覚醒と関連するHRV指標が低く,終了後安静時に副交感神経活動を反映するHFが高いことは,発達児における覚醒水準の調節障害を,自律神経指標を用いて客観的に評価できたと考えられた.バランスボード運動時にHRV指標と複数のSP項目と相関を認めたことは,バランスボードは発達児の覚醒水準を評価する上で有用であると考えられる.
発達障害児(発達児)の作業療法において,ぼーっとしているまたは落ち着きがなく覚醒の障害が疑われる児を目にすることが多い.作業療法の遂行には一定の覚醒水準の維持が必要であり,覚醒水準は前庭・固有感覚等の適切な感覚処理と関連している.しかし発達障害においては,報告されている感覚処理の障害が覚醒水準の調節障害を引き起こし,作業療法の効果に影響する可能性がある.覚醒水準を評価する方法には心拍変動(HRV)解析があり,心拍間隔の揺らぎを分析し,自律神経活動を介して覚醒水準を評価できる.HRVの周波数分析指標であるHFは副交感神経活動を反映し,低覚醒水準で増加し,高水準で低下.LF/HFはその逆の変化を呈する.これまで発達障害を対象としたHRV検査を行った研究はあるが,安静時や机上課題時であり,覚醒の調節がより必要となる運動中および運動前後の測定を用いた研究は少ない.本研究では,遊具を用いた運動時に,安静時および運動中の発達児の覚醒水準を,HRV解析を用い,定型発達児(定型児)との比較を踏まえ,自律神経の側面から客観的に評価した.
【目的】
発達児における遊具毎および運動前後の安静時の自律神経活動の変化を評価し,適切な覚醒水準への調整やパフォーマンス発揮を可能にするプログラム構成の一助とすることを目的とした.
【方法】
対象は発達児8名(発達群,平均5.1±0.9歳,男児6名・女児2名)および定型児8名(定型群,平均4.9±0.9歳,男児4名・女児4名)とした.発達児の診断は全例自閉症スペクトラム障害(DSM-5)であった.遊具はトランポリン,バランスボード,オーシャンスイングを用い,各3分間実施し,運動開始前および終了後と遊具の切り替え時に安静時間を設けた.児の胸部にワイヤレス心電計(RF-ECG,GM3社)を装着して,運動の開始前安静から終了後安静まで連続的にHRVをパソコンに記録し,HR(心拍数),HF(副交感神経),LF/HFおよびLF/(LF+HF)(覚醒と関連)の各指標を算出した(Bonaly Light,GMS社).感覚プロファイル(SP)の記載を保護者が行った.また,セラピストがVisual Analog Scale(VAS)で覚醒や集中等を評価した,統計解析は,群間比較にはマン・ホイットニー検定,遊具間比較にはフリードマン検定,指標間の相関にはスピアマンの相関係数を用いた.
【倫理的配慮】
研究内容は所属機関の倫理員会により承認された.また保護者に研究内容の説明を行い,研究参加の同意を文書で得た.
【結果】
SPの点数に群間差はなかった.トランポリン運動時のLF/HFに定型群>発達群,バランスボード運動時のLF/(LF+HF)に定型群>発達群の有意差(p<0.05)を認めた.終了後安静時では,発達群のHFが有意に高かった (p<0.05).SPに関しては,定型群でバランスボード運動時のHFと前庭覚(r=0.74,p<0.05),LF/HFと身体の位置や動きに関する調整機能(r=-0.77,p<0.05)に有意な相関を認めたが,発達群では関連は認められなかった.また両群で運動の調整機能とバランスボード運動時のLF/HF,LF/(LF+HF)は逆向きの有意な相関(p<0.05)を呈した.VASでは,バランスボード運動時に定型群では注意集中とLF/(LF+HF)に有意な相関(r=0.80,p<0.05)を認めた.
【考察】
発達群はトランポリンおよびバランスボード運動時に覚醒と関連するHRV指標が低く,終了後安静時に副交感神経活動を反映するHFが高いことは,発達児における覚醒水準の調節障害を,自律神経指標を用いて客観的に評価できたと考えられた.バランスボード運動時にHRV指標と複数のSP項目と相関を認めたことは,バランスボードは発達児の覚醒水準を評価する上で有用であると考えられる.