第57回日本作業療法学会

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一般演題

発達障害

[OI-3] 一般演題:発達障害 3

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM 第6会場 (会議場A2)

[OI-3-1] 自閉症スペクトラム症の未就学児に対する,はみがきの提示方法で目的や手順の理解につながった事例

籔中 雅之 (東浦平成病院リハビリテーション科)

【はじめに】自閉症スペクトラム症(ASD)の困難さの一つに,社会的認知機能の困難さが挙げられる.その影響として,他者の行動を参考にして活動の遂行方法を学習する機会が損なわれ,社会的に一般化されている活動形態を理解できず,日常生活動作が困難になることが,臨床経験上みられる.今回ASDの未就学児に対し課題指向型訓練を行う際に,道具の用途や活動の目的を明確に伝えられるよう,児の反応に合わせて提示の方法を修正することで,はみがきが一部可能となった事例について報告する.本報告は対象者家族に対して書面・口頭にて説明し同意を得ている.また当院の倫理審査委員会の許可を得ており,演題発表に関連して開示すべき COIはない.
【事例紹介】女児(5歳8ヶ月,年長),診断名 ASD・知的障害
【評価】母への面接にてはみがきへの介入を行うこととなった.児のはみがきは,母の「シャカシャカ音がなるようにして」という声かけに応じて歯ブラシを動かすものの,歯ブラシの毛先で歯を撫でる程度であり,毛先と歯の面を合わせることができなかった.また動作は断続的であり,歯の左側ばかりを集中的に磨いていた.母への聴取では「現時点でのはみがきは仕上げ磨きできれいにしている状況で,自分で行うはみがきは練習の範囲にとどまっている.今すぐ完璧にはみがきができる必要はないと考えているが,自分で少しでも口の中を清潔に保てるようになってほしい」と話していた.カナダ作業遂行測定(COPM)は満足度2,遂行度1だった.目標は「自宅で補助ツールと誘導によって,はみがきを自身で行える」と設定した.またGoal Attainment Scaling(GAS)では,初期評価時の様子を-1,上記の設定した目標を1とした.
【介入】はみがきへの介入は,課題指向型訓練として実際の歯ブラシを用いながら行い,計7回実施した.1~2回の介入では,汚れをブラシで落とすというはみがきの目的を理解できることを目指し,おはじきについた水性クレヨンを歯ブラシで掃除する練習を行った.3~7回の介入では歯の模型を用いて,歯に対して歯ブラシを当てる様子を視覚的に確認しながら動作の練習を行った.それに併せて,はみがきの手順表を作成し,順序立てて歯全体を磨けるよう練習を行った.手順表の作成に関しては,記載された手順を厳守するよう促すのではなく,児の遂行の様子に合わせてイラストや色分け,時間を記載するなどの修正を行い,手順表を確認すれば自然に適切な活動遂行が行えることを目指して作成した.
【結果】はみがきは,毛先と歯の面を合わせて往復しながらブラッシングすることが可能となった.また手順表を確認しながら,順序立てて歯全体を磨けるようになった.自宅でも手順表を確認しながら行うことで,作業療法の場面と同様にはみがきを遂行できるようになった.母は「今後も練習を重ねていく必要はあるが,仕上げ磨きだけに頼り切ることなく,現在の本人に求められる範囲のはみがきはできている.」と話しており,COPMは遂行度2→,8満足度1→5となり,GASは-1→1と改善がみられた.
【考察】おはじきについた汚れを落とす経験を通して歯ブラシの「汚れを落とす」という用途を確認する機会を設けたことが,はみがきの目的を理解する一助となったと考えられる.また歯全体を順序立てて磨いていける方法として手順表の作成を行いながら課題を設定したことで,順序立ててはみがきを遂行するスキルが獲得できたと考えられる.今後も継続的に手順表を生活で使用して頂き,児の成長に合わせて口腔内が清潔かを確認するなどのスキルの拡大を図っていけることが望ましいと考える.