[OI-3-3] 自閉スペクトラム症児の感覚プロファイルと立位でのズボン履き動作との関連
【はじめに】
自閉スペクトラム症(ASD)児は,対人コミュニケーション以外にも運動障害や感覚調整障害を持ちあわせている(Fournier K A,2010).就学前後のASD児は,感覚処理や協調運動の遅れから生活習慣が未獲得,あるいは未習熟である(Igarashi K,2005)と言われている.筆者らは,教員や保護者から着替えが苦手な児の相談を受ける.この苦手さには,感覚処理の困難さや筋緊張のアンバランスさが起因していると考えられているが,それを明らかにした研究はない.本研究の目的は,感覚プロファイル(SP)と立位ズボン履き動作の関連を見出すことであった.
【対象と方法】
対象は,小児科医または児童精神科医によりASDと診断された,男児23名,女児10名からなる33名のASD児(5歳3ヵ月〜8歳3ヶ月,IQ82〜117)であった.知的障害を伴う児や立位にてズボン履きが行えない児は除外した.
感覚面の調査はSPを用い,立位ズボン履き動作の解析は,動作画像と足圧分布と圧中心(COP)を用いた.課題は立位でのズボン履きとした.用語の定義は,最初にズボンを通過する間の支持脚を先支持脚とし,後脚がズボンを通過している間の支持脚を後支持脚とした.使用機器は,足圧分布解析装置(EM-MP2703,酒井医療株式会社,分解能;100 Hz, 16 bits)とカメラ2台(Logical HD Webcam C920 Logitech, 分解能; 30 Hz, 2,736,000 px)を同期して用いた.統計解析は,スピアマンの順位相関を行った.有意水準は5%とした.倫理的配慮は,山形県立保健医療大学倫理委員会(承認番号1809-18)の承認を得た上で,対象児と保護者には口頭と書面による十分な説明を行い,同意を得た.
【結果】
SPの項目のうち 身体の位置や動きに関する調整機能(BPM)の得点のみが,立位ズボン履き動作時の先支持脚のCOP前後方向最大振幅と0.606(p=0.0006),先支持脚のCOP前後方向総軌跡長との間に0.572(p=0.0012)の相関を示した.そして,BPMに偏りのあると判定された対象児は,21名であった.
BPM低得点の児は,COP変位が小さかった.その動作特徴は,ズボンの履き口に足部をひっかけることなく,左右のウエスト部分を掴んで円滑な動作を行っていた.一方,BPM高得点の児は,COP変位が大きかった.その動作特徴は,ズボンのウエスト前部分を把持しており,体幹を側屈し,ズボンの履き口に足部をひっかけた.
【考察】
定型発達児の立位ズボン履き動作時のCOP変位は,成熟度に関与している(Matsuda N,2021).ASD児のそれは,COP変位が小さければ動作が得手,大きければ不得手である(Ito K,2022).つまり,立位ズボン履き動作のCOPとその動作の得手,不得手には関連がある.他方,感覚調整障害をあわせ持つASD児は,SPの項目に偏りが生じやすい(White B P,2007).今回,SPのBPM得点と立位ズボン履き動作時のCOP変位の間に関係があり,他のSP項目との間には関係なかった.立位でのズボン履き動作は「ズボンのウエスト端を掴む」「片足で体幹の屈曲を保持する」「脚をズボンに引っ掛けずに下肢をズボンに通す」というズボン履き動作の課題特異性を有するとの報告がある(Matsuda N,2021).BPM得点は,これらの課題特異性との関係が示唆できる.つまり,SPのBPM得点が立位ズボン履き動作の得手,不得手を予測する上で重要な指標になることを示唆する.
自閉スペクトラム症(ASD)児は,対人コミュニケーション以外にも運動障害や感覚調整障害を持ちあわせている(Fournier K A,2010).就学前後のASD児は,感覚処理や協調運動の遅れから生活習慣が未獲得,あるいは未習熟である(Igarashi K,2005)と言われている.筆者らは,教員や保護者から着替えが苦手な児の相談を受ける.この苦手さには,感覚処理の困難さや筋緊張のアンバランスさが起因していると考えられているが,それを明らかにした研究はない.本研究の目的は,感覚プロファイル(SP)と立位ズボン履き動作の関連を見出すことであった.
【対象と方法】
対象は,小児科医または児童精神科医によりASDと診断された,男児23名,女児10名からなる33名のASD児(5歳3ヵ月〜8歳3ヶ月,IQ82〜117)であった.知的障害を伴う児や立位にてズボン履きが行えない児は除外した.
感覚面の調査はSPを用い,立位ズボン履き動作の解析は,動作画像と足圧分布と圧中心(COP)を用いた.課題は立位でのズボン履きとした.用語の定義は,最初にズボンを通過する間の支持脚を先支持脚とし,後脚がズボンを通過している間の支持脚を後支持脚とした.使用機器は,足圧分布解析装置(EM-MP2703,酒井医療株式会社,分解能;100 Hz, 16 bits)とカメラ2台(Logical HD Webcam C920 Logitech, 分解能; 30 Hz, 2,736,000 px)を同期して用いた.統計解析は,スピアマンの順位相関を行った.有意水準は5%とした.倫理的配慮は,山形県立保健医療大学倫理委員会(承認番号1809-18)の承認を得た上で,対象児と保護者には口頭と書面による十分な説明を行い,同意を得た.
【結果】
SPの項目のうち 身体の位置や動きに関する調整機能(BPM)の得点のみが,立位ズボン履き動作時の先支持脚のCOP前後方向最大振幅と0.606(p=0.0006),先支持脚のCOP前後方向総軌跡長との間に0.572(p=0.0012)の相関を示した.そして,BPMに偏りのあると判定された対象児は,21名であった.
BPM低得点の児は,COP変位が小さかった.その動作特徴は,ズボンの履き口に足部をひっかけることなく,左右のウエスト部分を掴んで円滑な動作を行っていた.一方,BPM高得点の児は,COP変位が大きかった.その動作特徴は,ズボンのウエスト前部分を把持しており,体幹を側屈し,ズボンの履き口に足部をひっかけた.
【考察】
定型発達児の立位ズボン履き動作時のCOP変位は,成熟度に関与している(Matsuda N,2021).ASD児のそれは,COP変位が小さければ動作が得手,大きければ不得手である(Ito K,2022).つまり,立位ズボン履き動作のCOPとその動作の得手,不得手には関連がある.他方,感覚調整障害をあわせ持つASD児は,SPの項目に偏りが生じやすい(White B P,2007).今回,SPのBPM得点と立位ズボン履き動作時のCOP変位の間に関係があり,他のSP項目との間には関係なかった.立位でのズボン履き動作は「ズボンのウエスト端を掴む」「片足で体幹の屈曲を保持する」「脚をズボンに引っ掛けずに下肢をズボンに通す」というズボン履き動作の課題特異性を有するとの報告がある(Matsuda N,2021).BPM得点は,これらの課題特異性との関係が示唆できる.つまり,SPのBPM得点が立位ズボン履き動作の得手,不得手を予測する上で重要な指標になることを示唆する.