第57回日本作業療法学会

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一般演題

発達障害

[OI-3] 一般演題:発達障害 3

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM 第6会場 (会議場A2)

[OI-3-5] 就学前ASD児の偏食と運動発達の関係

松田 祥子1, 小松 則登1, 寳珠山 稔2 (1.愛知県医療療育総合センター中央病院リハビリテーション科, 2.名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻予防・リハビリテーション科学)

【背景】自閉スペクトラム症(ASD)は社会的コミュニケ―ションおよび対人的相互反応の持続的な障害,行動,興味または活動の限定された反復的な行動様式を特徴にもつ障害である.ASD児の8割程度はなんらかの運動機能に障害を有するとされ,その機能的神経病理も報告されている.ASD児の偏食は特徴的な食事行動の一つであり,その原因として運動や感覚処理の問題,制限された興味などが考えられている.ASD児の保護者からの訴えとして偏食があげられることは少なくない.作業療法では,偏食に対して環境調整や食材の工夫を試みることがあるが確立した介入の方策はみられない.一方,作業療法の経過の中でASD児の運動や行動の変化とともに偏食にも変化が現れることがある.これらのことから環境調整や食材の工夫に加えて,新たな作業療法介入の可能性について考えた.本研究の目的は,ASD児のASDの重症度と偏食および運動機能の関係を明らかにすることである.
【方法】対象は所属医療機関で通院により作業療法を受けている就学前(3~6歳)ASD児のうち研究協力へ同意が得られた22名(男性16名・女性6名,平均月齢57.2±9.6ヶ月).対象児に対し運動発達検査(Peabody Developmental Motor Scale-2)を実施し,保護者からは3種の質問紙(日本版SRS-2対人応答性尺度,Brief Autism Mealtime Behavior Inventory日本語版,Food Preference Questionnaire for Children日本語版)の回答を得た.偏食ほか各比較項目の値はPearson相関係数およびp値を算出した.多重比較にはfalse discovery ratio(Benjamini Hochberg法)を用いた.また,偏食についてはPDMS-2の下位項目についても関係を調べた.月齢による発達を考慮するために偏相関係数を求めた.いずれの解析も危険率0.05以下とした.本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者に口頭および文書にて説明し書面にて同意を得た.
【結果】月齢と運動機能,ASDの重症度,偏食,食行動との間にはいずれも有意な関係は認められなかった(月齢と運動機能(p=0.19),ASDの重症度(p=0.47),偏食(p=0.16),食行動(p=0.97)).ASDの重症度,偏食,運動機能,食行動の関係では多重比較の結果,ASDの重症度と偏食,ASDの重症度と運動機能,運動機能と偏食,偏食と食行動は有意な関係が認められた(p<0.05).ASDの重症度と食行動(p=0.052),運動機能と食行動(p=0.30)は有意な関係は認められなかった.偏食と運動機能の下位項目と月齢の偏相関は,stationary(運動の定常性)は偏食,locomotion(移動動作)は月齢と偏食と,visual-motor integration(視覚-運動統合)は月齢との間にそれぞれ有意な関係が認められた(p<0.05).
【考察】月齢とASDの重症度,偏食,運動機能,食行動との相関はいずれも有意ではなかったことから,年齢の経過とともにそれらが変化するわけではないと考えられた.一方,ASDの重症度と運動機能の間に有意な関係が認められ,ASDの重症度が高いほど運動機能に障害がみられた.ASDの重症度と偏食の間にも有意な関係が認められ,ASDの重症度が高いほど偏食の程度が大きいことが示された.また,偏食と運動機能に有意な関係が認められ運動機能が良好な児の方が偏食の程度が小さかった.運動機能の下位項目では,偏食とstationary,偏食とlocomotionとの間には相関関係がみられ,stationary,locomotionの得点が高いほど偏食の程度が小さいという結果になった.本研究では,偏食と運動機能の総指数や,stationaryとlocomotionが偏食と相関関係にあったことから,偏食と運動機能の関係に注目し,偏食への介入を考えることができるかもしれない.