第57回日本作業療法学会

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一般演題

発達障害

[OI-4] 一般演題:発達障害 4

Sat. Nov 11, 2023 2:50 PM - 4:00 PM 第4会場 (会議場B5-7)

[OI-4-1] 不器用児における拇指-示指タッピングと日常生活上の協調運動との関連

吉田 彩華1,2, 池田 千紗3, 中島 そのみ4, 仙石 泰仁4 (1.北海道医療大学リハビリテーション科学部作業療法学科, 2.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 3.北海道教育大学札幌校特別支援教育専攻, 4.札幌医科大学保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】
 我々は,外部音に合わせて拇指-示指タッピングを行う運動協調性評価(以下,拇指-示指タッピング評価)の有用性について研究を行っている.これまで,拇指-示指タッピング評価と運筆課題では,健常学齢児において拇指-示指タッピング評価の「音-タイミングのずれ率」が大きくなると運筆速度が速くなるといった関連があることを報告した(吉田ら,2021).本研究では,協調運動の問題を持つ発達障害児(以下,不器用児)を対象に,拇指-示指タッピング評価と運筆課題,日常生活上で行われる動作における運動技能の評価(以下,運動技能の評価)との関連を検討した.
【方法】
 対象は本研究への協力に同意が得られた不器用児28名(10~18歳)とした.拇指-示指タッピング評価は0.67Hz,0.83Hz,1Hz,2Hzの外部音に合わせ拇指と示指の間を対象者の示指の長さで開くよう教示し,練習後30回ずつ実施した.指の動きはタブレットトラッカーTT-Z(株式会社ライブラリー)で計測した.運筆課題は,タブレットPC上に2本の線で描かれた1辺10cmの正三角形の罫線間内にペン型マウスで線を引く課題で,数回練習の後,3回実施した.運動技能の評価は,Hashimotoら(2022)が開発した質問紙を使用し対象児の担当作業療法士に評価を依頼した.
【分析方法】
 拇指-示指タッピング評価は,①音-タイミングのずれ:|タッピングした時間-外部音を提示した時間|,②タッピング間隔のずれ:|タッピング速度-外部音の速度|,③距離のずれ率(タッピング時に拇指と示指を開いた時の指間距離のずれ):|測定距離-基準の距離|÷基準の距離×100を指標とした.運筆課題は,ペン型マウスが罫線間からはみ出した距離(以下,はみ出し距離),ペン型マウスの移動速度(以下,運筆速度)を算出した.運動技能の評価は「巧緻動作」「粗大運動」「ボール操作」の3つの項目に分けられた質問項目を,それぞれ5段階で評価を行い,各項目の得点(以下,スコア)と総合点(以下,トータルスコア)を算出した.課題間の関連性についてはSpearmanの相関係数を用い検討した.なお本研究は筆頭著者の所属先における倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
 運筆課題では,はみだし距離の平均は0.53±0.96cm,運筆速度の平均は2.09±0.91cm/秒であった.運動技能評価のスコアの平均は巧緻動作で19.0,粗大運動で12.5,ボール操作で4.0,トータルスコアの平均は37.0であった.課題間の関係では,拇指-示指タッピング評価と運筆課題には有意な関連はなかったが,運動技能の評価の関連では,音―タイミングのずれの0.67Hzと巧緻運動,ボール操作,トータルスコアに,0.83Hzと粗大運動,ボール操作,トータルスコアに中等度の相関が有意に認められた.タッピング間隔のずれでは,2Hzと巧緻運動の間で中等度の相関が認められた.距離のずれ率では,0.67Hzと巧緻運動に,0.83Hzと巧緻運動,トータルスコアに,1Hzと巧緻運動に中等度の相関が有意に認められた.また,0.67Hzとトータルスコアに,0.83Hzとボール操作に,2Hzとボール操作に弱い相関が有意に認められた.
【考察】
 本研究では,不器用さのある児では拇指-示指タッピング評価と運動技能の評価の関連から,音-タイミング,タッピング間隔,距離のずれが大きくなるほど運動の苦手さが増しており,特に0.67Hzと0.83Hzの評価指標は日常生活上の不器用さの問題を反映する可能性が考えられた.一方で健常学齢児とは異なり運筆課題には有意な相関が認められず,不器用時特有の運動方略の問題が背景にある可能性が示唆された.