[OI-4-2] 軽度知的障害と発達障害がある若年成人の就労意思決定過程
【はじめに】就労支援は作業療法の専門領域の一つであり,作業療法士はクライエントにとって意味のある就労を支援する.
軽度知的障害と発達障害がある者の多くは,高校進学に合わせて療育手帳を取得し,社会参加への支援を求め,特別支援学校の高等部に進学する.彼らは自己効力感が低く,ストレスへの脆弱性が強いことが指摘されている.知的障害種別の特別支援学校の卒業生は,現在34.4%が就労に至るが,就労後1年の職場定着率は7割を切る.
【目的】本研究は就労した軽度知的障害と発達障害がある若年成人が,どのような時期に,どのような作業を経験し,社会参加に向け就労に対する意思決定を行なってきたか,また自身で意思決定が困難だった場合,その要因やそれを助けた資源は何か,後方視的に学齢期を振り返るナラティブ・インタビューで,定性的に調査することを目的とした.就労意思形成の過程を理解することは,彼らに対する就労支援の指針となることが考えられる.
【方法】雇用契約がある就労を「就労」と定義し,就労経験があり,療育手帳の軽度区分と,発達障害の医療診断か精神障害者手帳を所持,または所持した経験のある人で,30歳以下の特別支援学校高等部の卒業生を研究対象者とした.研究対象者は,協力を得た就労支援事業所の職員などをインフォーマントとし,段階的かつ合目的的に5名を選出した.研究者は研究対象者とその保証人にインフォームド・コンセントを行い,研究協力の同意を得た. 1回30分2回以上の面接を基本に,面談の回数,実施場所,そして家族らの陪席の希望の有無など,個別に相談し決定した.インタビュワーは研究者が行い,「小学校に入ってから特別支援学校を卒業するまで,どんな仕事をしたいと思ってきましたか?」を生成質問とし,「小学校」から「現在」まで区分した用紙に,研究者が語りを簡易な文章で記載し,逐次確認しながら面接した.面接内容は録音した.研究者は逐語データよりコード化し,研究参加者ごとのバイオグラフィーを作成して,質的研究や就労支援経験のある作業療法士5名のチェックを受けた.面接期間は,2022年10月30日から2023年1月23日であった.本研究は,質的研究のための統合基準(Consolidated criteria for Reporting Qualitative research:COREQ)に準じて行い,所属施設の研究倫理委員会の承認を得て実施した.開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【結果】2事例のバイオグラフィーを示す.A氏は中学時代,特別支援学校高等部を見学して進学を決めた.就労については「全く思っていなかった」.学校の勧めでスーパーに職場実習し,そこに就職した.現在「行きたくないとき」もあるが,家族に話して通勤する.高校の頃に他の業種を体験できたらよかった.B氏は小学生の頃,自宅を建てた大工に憧れ,クレーンゲームが好きだった.中学時代親戚が車を購入したことからマニュアル車に興味を持ち,「車屋さんになりたい」と思った.車の整備の実習を経験し,「自分が決めて」自動車関係に就職した.
【考察】学齢期に好んだ作業と現在の就労につながりを示す語りは,B氏のみであった.中学時代から就労のイメージがあった者は2名で,高等部で就労支援を受ける意識は低く,主に学校が主導した職場実習時の通勤や勤務の体験から,具体的な「就労」条件を考え,就労意思を形成していた.全員,現在の就労状況から,就労に求める希望がさらに明確になっていた.個々の就労意思は,実際の経験によって明確化していき,職場定着期間と関連するものと考えられる.当事者に意味のある就労は,就労意思形成の過程に応じた支援と,職域の選択が重要と考えた.
軽度知的障害と発達障害がある者の多くは,高校進学に合わせて療育手帳を取得し,社会参加への支援を求め,特別支援学校の高等部に進学する.彼らは自己効力感が低く,ストレスへの脆弱性が強いことが指摘されている.知的障害種別の特別支援学校の卒業生は,現在34.4%が就労に至るが,就労後1年の職場定着率は7割を切る.
【目的】本研究は就労した軽度知的障害と発達障害がある若年成人が,どのような時期に,どのような作業を経験し,社会参加に向け就労に対する意思決定を行なってきたか,また自身で意思決定が困難だった場合,その要因やそれを助けた資源は何か,後方視的に学齢期を振り返るナラティブ・インタビューで,定性的に調査することを目的とした.就労意思形成の過程を理解することは,彼らに対する就労支援の指針となることが考えられる.
【方法】雇用契約がある就労を「就労」と定義し,就労経験があり,療育手帳の軽度区分と,発達障害の医療診断か精神障害者手帳を所持,または所持した経験のある人で,30歳以下の特別支援学校高等部の卒業生を研究対象者とした.研究対象者は,協力を得た就労支援事業所の職員などをインフォーマントとし,段階的かつ合目的的に5名を選出した.研究者は研究対象者とその保証人にインフォームド・コンセントを行い,研究協力の同意を得た. 1回30分2回以上の面接を基本に,面談の回数,実施場所,そして家族らの陪席の希望の有無など,個別に相談し決定した.インタビュワーは研究者が行い,「小学校に入ってから特別支援学校を卒業するまで,どんな仕事をしたいと思ってきましたか?」を生成質問とし,「小学校」から「現在」まで区分した用紙に,研究者が語りを簡易な文章で記載し,逐次確認しながら面接した.面接内容は録音した.研究者は逐語データよりコード化し,研究参加者ごとのバイオグラフィーを作成して,質的研究や就労支援経験のある作業療法士5名のチェックを受けた.面接期間は,2022年10月30日から2023年1月23日であった.本研究は,質的研究のための統合基準(Consolidated criteria for Reporting Qualitative research:COREQ)に準じて行い,所属施設の研究倫理委員会の承認を得て実施した.開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【結果】2事例のバイオグラフィーを示す.A氏は中学時代,特別支援学校高等部を見学して進学を決めた.就労については「全く思っていなかった」.学校の勧めでスーパーに職場実習し,そこに就職した.現在「行きたくないとき」もあるが,家族に話して通勤する.高校の頃に他の業種を体験できたらよかった.B氏は小学生の頃,自宅を建てた大工に憧れ,クレーンゲームが好きだった.中学時代親戚が車を購入したことからマニュアル車に興味を持ち,「車屋さんになりたい」と思った.車の整備の実習を経験し,「自分が決めて」自動車関係に就職した.
【考察】学齢期に好んだ作業と現在の就労につながりを示す語りは,B氏のみであった.中学時代から就労のイメージがあった者は2名で,高等部で就労支援を受ける意識は低く,主に学校が主導した職場実習時の通勤や勤務の体験から,具体的な「就労」条件を考え,就労意思を形成していた.全員,現在の就労状況から,就労に求める希望がさらに明確になっていた.個々の就労意思は,実際の経験によって明確化していき,職場定着期間と関連するものと考えられる.当事者に意味のある就労は,就労意思形成の過程に応じた支援と,職域の選択が重要と考えた.