第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-5] 一般演題:発達障害 5

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第7会場 (会議場B3-4)

[OI-5-3] 学校作業療法を安定的に実践できるようになるまでのプロセス:

山口 桜子1, 友利 幸之介2, 齋藤 佑樹3, 高畑 脩平4 (1.五反田リハビリテーション病院, 2.東京工科大学, 3.仙台青葉学院短期大学, 4.藍野大学)

【緒言】近年,学校作業療法の実践がいくつか報告されているが,同時に,学校作業療法の導入・実践には様々な障壁があることも報告されている.そこで本研究では,学校作業療法導入における障壁を乗り越え,円滑に実施できるようになるまでにどのようなプロセスを経たのか,各プロセスにおける行動選択には,どのような信念や価値観が存在するのかについて,質的研究手法を用いて明らかにすることを目的とした.本研究は東京工科大学研究倫理審査委員会での承認(E20HS-028)を得て実施した.また,対象者に対しては,書面と口頭で研究内容について説明し同意を得た.尚,本研究の実施に際して,COI関係にある企業等はない.
【方法】現在円滑な学校作業療法の実施に至った作業療法士にインタビューを行い,その経験の変容と成長を捉えるために,質的研究の手法である複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach: TEA)を選択した .学校作業療法を実施している作業療法士自体が非常に希少なため,筆者の知人でもある作業療法士1名(以下,A氏)とした.2021年3〜9月に60分のインタビューを3回実施した.初回インタビューではインタビューガイドを用いて,1)学校作業療法を行う上で苦労した点とその対処方法,2)学校作業療法を行う上でやりがいを感じる点,3)学校作業療法を行う上で意識していること,4)自分の考えなどに影響を与えた事例に基づき,学校作業療法を始めるきっかけから,円滑な実施ができるまでの径路について聴取した.インタビュー後,本研究の等至点である学校作業療法の円滑な実施に関連するA氏の経験や判断,その他の出来事などに注目しながらラベルを作成した.その後ラベルを時系列に配列しながらTEM図を作成した.試作したTEM図をA氏に見てもらいながら,結果の解釈の誤りや不足,追加すべき項目について確認してもらった.等至点までの径路についてトランスビュー的飽和状態となるまで修正を繰り返し,計3回のインタビューを経てTEM図を完成させた.
【結果】A氏が円滑に学校作業療法を実施するまでの径路についてTEAを用いて分析した結果,1)学校作業療法のシステムと必要資金を獲得するまで,2)他職種に作業療法の意義について耳を傾けてもらうまで,3)圏域に学校作業療法の認知度が高まるまで,4)県士会単位で学校作業療法の合意を作るまで,5)圏域に広く安定的な学校作業療法を実施可能になるまで,の5期において,ターニングポイントとなる6つの分岐点と,それらの分岐点での行動選択を方向づける5つの信念や価値観が抽出された.
【結語】今回,学校作業療法を圏域に広く安定的に実施可能になるまでのプロセスをTEAによって追求し,障壁とそれに起因する分岐点,障壁をどのように乗り越えてきたのかについて示した.本研究においてA氏はどのプロセスにおいても「相手の理解に努め」,「利他的に相手を活かす」姿勢を重視しており,これらは作業療法士が学校に介入し,教員らと相補的な協働を行う上で重要であることが示唆された.