[OJ-1-1] ナビアプリを用いた高齢者の移動支援
【背景と目的】ナビゲーションとは,ある場所から別の場所に移動することを可能にする方向と定位の空間的能力である(Wolbers & Hegarty, 2010).高齢者では,現実世界でのナビゲーション能力の低下が報告されており(Irving et al., 2018; Schöberl et al., 2020),自由な外出行動を阻害する可能性がある.近年,高齢者のモバイル機器利用が急拡大しており(総務省, 2022),ナビゲーションアプリケーション(ナビアプリ)は高齢者へナビゲーション支援を提供する有用な手段の一つであると考えられる(Shimokihara et al., 2021).しかしながら,高齢者のナビアプリ使用に関する定量的な調査報告は不足している.本研究では,高齢者におけるナビアプリによる移動支援の活用可能性を時間,精度,視線行動の観点から若年者と比較検討すること,および高齢者の効率的ナビゲーション歩行に関連する要因を探索することを目的とした.
【方法】65歳以上の地域在住高齢者20名(女性17名,平均年齢73.5±8.1歳)および若年成人16名(女性10名,平均年齢25.3±3.7歳)を対象とした.ナビアプリを使用した経路支援の評価として,ルートナビゲーション課題(RNT)を実施した.RNTでは,参加者は総距離約1,300mの新規経路において,ナビアプリを用いてできるだけ早く目的地まで徒歩にて到達するように求められた.RNTのアウトカムは,所要時間(sec),立ち止まり回数(回),ルートエラー回数(回)であり,RNTに随行する評価者によって評価した.さらに,ナビアプリ使用中の参加者の視線行動について,眼鏡型視線分析装置(Tobii Pro Glasses 3)を用いて計測した.また,録画された視線行動データから,一定のルート歩行中に参加者がナビアプリ画面を見た回数を事後計測した.RNTのアウトカムおよび視線行動データは,高齢者と若年成人で比較検討した.さらに,高齢者におけるナビアプリを用いた効率的な歩行と関連する要因を検討するために,RNTの所要時間を目的変数とした一般線形回帰モデルを作成し,各評価項目との関連性を検討した.解析にはR ver4.2.2を使用し,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は鹿児島大学倫理委員会の承認(No. 210282)のもと,参加者全員の同意を得て実施された.
【結果】高齢者は若年成人と比較して,RNTの立ち止まり回数(p < .001, effect size; ES = 0.57)ルートエラー回数(p = .001, ES = 0.54)が有意に多かった.RNT中の視線行動データの比較では,高齢者において総固視時間(p = .002, ES = 1.08),平均固視時間(p < .001, ES = 1.32)が少なく,サッケード平均振幅(p = .005, ES = 0.99),サッケード総角度(p = .035, ES = 0.72)が小さく,歩行中にモバイル機器を見た回数(p < .001, ES = 0.72)が多くなっていた.また,一般線形モデルでは,歩行速度(β = −0.76)およびMMSE(β = −0.68),LSA(β = −1.23),MDPQ-16(β = −0.58)のスコアと高齢者のRNT所要時間との有意な関連性を認めた.
【考察】高齢者において,ナビアプリ使用時の立ち止まりやルートエラーが多かったことは,目標への固視時間短縮(Rycroft et al., 2018)や有効視野減少(Shih et al., 2012)による環境認識能力の低下が関係していると考えられる.また,ナビアプリを用いた効率的移動には,身体・認知機能だけでなく,生活空間の広がりやモバイル機器の習熟度といった多面的機能が必要であることが考えられる.本研究は,高齢者の自立した移動を支援する新しいナビゲーションシステム開発のための基礎的な知見となることが期待される.
【方法】65歳以上の地域在住高齢者20名(女性17名,平均年齢73.5±8.1歳)および若年成人16名(女性10名,平均年齢25.3±3.7歳)を対象とした.ナビアプリを使用した経路支援の評価として,ルートナビゲーション課題(RNT)を実施した.RNTでは,参加者は総距離約1,300mの新規経路において,ナビアプリを用いてできるだけ早く目的地まで徒歩にて到達するように求められた.RNTのアウトカムは,所要時間(sec),立ち止まり回数(回),ルートエラー回数(回)であり,RNTに随行する評価者によって評価した.さらに,ナビアプリ使用中の参加者の視線行動について,眼鏡型視線分析装置(Tobii Pro Glasses 3)を用いて計測した.また,録画された視線行動データから,一定のルート歩行中に参加者がナビアプリ画面を見た回数を事後計測した.RNTのアウトカムおよび視線行動データは,高齢者と若年成人で比較検討した.さらに,高齢者におけるナビアプリを用いた効率的な歩行と関連する要因を検討するために,RNTの所要時間を目的変数とした一般線形回帰モデルを作成し,各評価項目との関連性を検討した.解析にはR ver4.2.2を使用し,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は鹿児島大学倫理委員会の承認(No. 210282)のもと,参加者全員の同意を得て実施された.
【結果】高齢者は若年成人と比較して,RNTの立ち止まり回数(p < .001, effect size; ES = 0.57)ルートエラー回数(p = .001, ES = 0.54)が有意に多かった.RNT中の視線行動データの比較では,高齢者において総固視時間(p = .002, ES = 1.08),平均固視時間(p < .001, ES = 1.32)が少なく,サッケード平均振幅(p = .005, ES = 0.99),サッケード総角度(p = .035, ES = 0.72)が小さく,歩行中にモバイル機器を見た回数(p < .001, ES = 0.72)が多くなっていた.また,一般線形モデルでは,歩行速度(β = −0.76)およびMMSE(β = −0.68),LSA(β = −1.23),MDPQ-16(β = −0.58)のスコアと高齢者のRNT所要時間との有意な関連性を認めた.
【考察】高齢者において,ナビアプリ使用時の立ち止まりやルートエラーが多かったことは,目標への固視時間短縮(Rycroft et al., 2018)や有効視野減少(Shih et al., 2012)による環境認識能力の低下が関係していると考えられる.また,ナビアプリを用いた効率的移動には,身体・認知機能だけでなく,生活空間の広がりやモバイル機器の習熟度といった多面的機能が必要であることが考えられる.本研究は,高齢者の自立した移動を支援する新しいナビゲーションシステム開発のための基礎的な知見となることが期待される.