第57回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-1] 一般演題:高齢期 1

Fri. Nov 10, 2023 1:20 PM - 2:20 PM 第6会場 (会議場A2)

[OJ-1-2] 病院版転倒自己効力感尺度の内容妥当性の検証

渡邉 あゆみ1, 小野 彩香1,2, 北村 新1,3, 井上 靖悟1, 大高 洋平1,4 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科, 3.藤田医科大学保健衛生学部リハビリテーション学科, 4.藤田医科大学医学部リハビリテーション医学Ⅰ講座)

【序論】Falls Efficacy Scale(以下,FES)は,国内で用いられる主要な転倒自己効力感尺度の一つであり,転倒や健康状態・身体機能低下などと関連が報告されている.地域在住者を対象に開発されたFESは地域生活を想定した項目で構成されているため,病院内で生活する入院患者には評価が困難な項目も含まれており,臨床で活用しにくい現状がある.入院生活に合わせた病院版転倒自己効力感(以下,FES-H)を開発することで入院患者の転倒自己効力感の測定が可能となり,病院内における転倒予防対策や自立度の決定に貢献すると考えられる.
【目的】FES-Hの質問項目を作成し,内容妥当性を検証すること.
【方法】尺度開発の国際基準であるConsensus-based Standards for selection of health Measurement Instrumentを参考に以下の手順でFES-Hの項目を検討した.
1)先行研究のレビューと研究者間での協議により転倒自己効力感の構成概念を整理して定義を作成した.
2)FES-Hの質問項目を作成した.項目は,既存の尺度で用いられている項目から関連するものを採用した.また,回復期リハビリテーション病棟(以下,当院)の過去5年分のインシデントレポートを参照して転倒発生頻度の高い転倒の状況を基に項目を作成した.
3)当院の医療安全委員会に従事する医療専門職10名を(理学療法士4名,作業療法士3名,看護師3名)対象に,Delphi法に基づくアンケートを行なった.参加者は各項目でFES-Hに採用することへの同意の程度を5段階(1:「全く同意しない」〜「5:非常に同意する」)のリッカートスケールで回答し,同意の程度が低い場合はその理由を自由記述にて回答した.同意の程度が低い項目は削除または修正し,全ての項目で80%以上「4:同意する」または「5:非常に同意する」の回答が得られるまでアンケートを繰り返し実施した.
4)医療従事者10名(理学療法士4名,作業療法士3名,看護師3名)と入院患者7名(年齢:53〜91歳,平均:75歳)を対象に,各項目の表現が測定したい事象や転倒自己効力感を適切に反映できているかについてインタビューした.インタビューで得られた意見を基に項目の表現を修正しFES-Hを完成させた.なお,本研究は東京湾岸リハビリテーション病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号229-3).
【結果】本研究における「転倒自己効力感」は,病棟内において転倒せずに該当の活動を行う自信はどの程度あるかを問うものと定義した.既存の尺度と当院のインシデントレポートから35項目が作成された.アンケートでは,「転倒につながりにくい動作項目がある」「病院内で実際に経験する機会が少ない項目である」「入院中に明らかに自立が困難と予測される課題は含まない方が良い」などの意見が挙がった.アンケートの度に同意の程度と意見を基に研究者間で協議をして項目を修正し,3回目にて全27項目で80%以上の参加者から同意が得られたため,アンケートを終了した.インタビューでは,医療専門職からは,「文言が複雑」「身体部位を記載」などの意見が挙がった.入院患者からは,「文章が長くわかりづらい」「状況がイメージしにくい」などが挙がった.これらの意見を基に項目を修正しFES-Hを完成させた.最終的にFES-Hは「床に落ちているものを中腰で拾う」や「立った状態でカーテンを開け閉めする」などの病院内における活動に関する転倒自己効力感を測定する項目で構成された.
【考察】既存の尺度,過去の転倒に関するデータ,医療専門職と患者の意見を集約することで,内容的妥当性を有する項目を作成できた.今後は臨床で使用できる尺度とするために,信頼性と妥当性を検証する必要がある.