第57回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-2] 一般演題:高齢期 2

Sat. Nov 11, 2023 11:20 AM - 12:30 PM 第6会場 (会議場A2)

[OJ-2-1] くも膜下出血後の意思疎通困難な患者に役立つライフヒストリーカルテ

林 悠大, 佐藤 英人 (医療法人珪山会鵜飼リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【序論】認知機能やADL予後不良(嶋村,2014)とされている80歳以上のクモ膜下出血を呈した症例を担当した.症例は,認知機能低下により,入院時から食事の自己摂取が困難であった.先行研究によると認知機能低下を呈した患者に,生活史を活用した作業療法を実施する事で,認知機能やADLが改善した(林,2010)との報告があるが,認知機能が重度で意思疎通が困難な場合,患者から生活史情報を得られ難い.一方,家族から生活史を聴取するライフヒストリーカルテ(Life History Chart:以下,LC)(田中,2014)を活用する事で,患者の生活史情報を得る事が可能である.しかし,LCを活用した事例報告や事例研究は少ない.
【目的】くも膜下出血後の認知機能低下により食事の自己摂取が困難な症例に対し,LCの情報から興味のある作業を用いた介入を実施すると,食事の自己摂取の改善が図れるのか検討する.
【対象】右脳底動脈破裂に伴うくも膜下出血後の80歳代女性.59病日後に当院転院.既往にアルツハイマー型認知症の診断があり.病前生活はADL自立.入院時評価は,運動麻痺を認めず,認知機能は,MMSE-J3点と重度認知機能低下を認め,意思疎通が困難.食事では,発動性や持続性が乏しく,自己摂取率は1割未満で,スタッフの介助負担が大きかった.その為,OT目標を食事の自己摂取獲得とした.
【方法】69病日後から,シングルケースデザインのABAB法を用い,各期間10日間の計40日間実施.A期では,標準的作業療法(基本動作練習,ADL練習)に加え,風船バレー,棒体操などの運動療法を実施.B期では標準的作業療法に加え,家族にLCを用いた面談を行い得た情報をもとに,興味のある作業を実施.病前の症例の趣味は,猫と戯れる事と塗り絵であった事から,興味のある作業を猫の塗り絵とした.また各期の作業療法を昼食前に固定した.効果指標には,看護師が毎昼食時に,10段階目測スケールを用いて食事の自己摂取率を測定.解析には,各期の自己摂取率の中央値を算出.また最小自乗法による回帰直線から回帰係数を求め変化を捉えた.介入の効果量として,比率に基づく効果量(Percentage of Nonoverlap Data:以下,PND)を用いて各期比較した.尚,本発表に際し当院倫理委員会及び症例家族に同意を得ている.
【結果】各期の食事の自己摂取率の中央値(割)は,A1期:2.0,B1期:5.0,A2期:5.5,B2期:9.0.尚,B2期の期間中に腹痛や下痢により食欲低下に陥った日が2日間続いたが,自己摂取率は,10日間中6日間が9割以上であった.回帰係数は,A1期0.28,B1期0.43,A2期0.23,B2期0.21.PNDは,A1期とB1期では,B1期PND70%(効果有り),B1期とA2期では,A2期PND20%(効果無し),A2期とB2期では,B2期PND60%(効果疑問)であった.
【考察】興味のある作業を実施したB1期は,運動療法を実施したA1期と比較し,食事の自己摂取率はPND70%と効果ありの判定であった.一方,B2期はA2期と比較し,自己摂取率はPND60%と効果疑問の判定であった.しかし,A2期はB1期と比較し,自己摂取率はPND20%と効果なしの判定であり,B2期でPND60%と改善した事から,自然回復では無くB2期もB1期と同様の介入効果があったと考える.
以上から,LCから得た情報をもとに実施した猫の塗り絵は,自発的に楽しく取り組める作業であり,昼食前に実施した事で,自発性や快楽刺激が持続し,自己摂取改善に繋がったと考える.
【結語】意思疎通が困難な患者に対し,興味のある作業を用いる際,LCの活用は有効な可能性がある.