第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-2] 一般演題:高齢期 2

2023年11月11日(土) 11:20 〜 12:30 第6会場 (会議場A2)

[OJ-2-6] 「もの忘れを補う方法を学ぼう:予定管理編」講座と聴講者アンケート

上村 智子1, 大塚 りさ2 (1.信州大学学術研究院保健学系, 2.信州大学医学部付属病院リハビリテーション科)

【はじめに】「もの忘れを補う方法を学ぼう」講座は,認知症発症前の一般高齢者向けの認知症予防プログラムである.開発にあたっては,認知障害が軽度の段階で,もの忘れを補う方法を高齢者が習得すれば,障害の進行後も自立的な生活を継続することができた自験例や,類似プログラムで,参加者が認知機能低下という自らの経験をノーマライズすることが,彼らの情緒的安定や良好な行動変容につながったとするVandermorrisら(2017)の研究を基盤としている.今回は,シリーズ3作目として「予定管理編」を作成した.予定管理に注目した理由は,認知機能低下が軽度であっても支障が出やすく,失敗すると,社会的交流に支障を来たしやすい作業であり,高齢者が自立的に生活する上で予防ニーズが高いと考えたからである.講座では,もの忘れの原因や日常生活における支障の実際を示し,続いて,予定忘れを人に教えてもらって補う方法や,予定をカレンダーに書いておき,日付時計で確認する方法(カレンダーと時計で確認)や,服薬支援器の活用法を紹介した.最後に,もの忘れが進む前に覚えておけば,予定管理が自分でできる・続けられるというメッセージを伝えて約20分間で終了した.
【目的】「もの忘れを補う方法を学ぼう:予定管理編」講座が,高齢者に分かりやすい,面白い,役立つと思ってもらえる内容かを調べ,否定的回答を分析することで,今後の講座開発の方向性を探ること.
【方法】介護予防教室などに参加した高齢者に聴講いただき,アンケートを実施した.アンケートでは,講座が「分かりやすいか」「面白いか」「役に立つか」や「もの忘れの心配が講座後に減ったか」の質問に5段階で回答を求めた.年齢,性別,もの忘れが増える心配の程度,紹介した方法の使用経験も尋ねた.除外基準は,同意なし,60歳未満とした.なお,本研究は大学の医倫理委員会の承認を得て実施した. 
【結果】有効回答77名の年齢は平均77.7±5.9歳,女性62名(81%)であった.もの忘れが増える心配は,非常に・かなり・多少は心配な人が57名(74%)と多かったが,全く心配のない人もいた.講座が「分かりやすいか」の質問に68名(88%)が,「面白いか」の質問に38名(49%)が非常に・かなり分かりやすいか面白いと回答した.「カレンダーと時計で確認」では59名(77%)が非常に・かなり役立つ,42 名(55%)が非常に・かなり使いたいと回答した.「服薬支援器」では, 46名(60%)が非常に・かなり役立つ,9名(12%)が非常に・かなり使いたいと回答した.講座後に26名(34%)が,もの忘れへの心配が非常に・かなり減ったと答えた.講座が「分かりやすいか」以下の7個の質問のいずれかで,「全くそうでない」と回答した人が5名いて,彼らのもの忘れが増える心配の程度は低かった.
【考察】本講座は,概ね分かりやすく,面白く,役に立つと思ってもらえる内容であることが示された.今後,より多くの高齢聴講者に積極的関心をもっていただくためには,服薬支援器のように,高齢者になじみのない工夫の提案では,使いたいと思う人を増やす工夫,例えば体験会をする等がよいと思われた.また,もの忘れが増えることを心配していない人では,講座への否定的回答もあったため,もの忘れの心配がない人でも積極的関心をもっていただけるように,実際の成功事例を示す等の工夫が必要と思われた.
【文献】Vandermorris S, et al: Accepting where I'm at' - a qualitative study of the mechanisms, benefits, and impact of a behavioral memory intervention for community-dwelling older adults. Aging & Mental Health 21: 895-901, 2017