第57回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

高齢期

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3

Sat. Nov 11, 2023 2:50 PM - 4:00 PM 第2会場 (会議場A1)

[OJ-3-1] ニューラルネットワーク解析を用いたBPSD陽性症状と陰性症状の出現予測モデルの作成

木村 大介1, 備前 宏紀1, 久納 健太2, 今井 あい子3, 冨山 直輝4 (1.関西医療大学保健医療学部 作業療法学科, 2.医療法人和光会 山田病院リハビリテーション部, 3.鈴鹿医療科学大学保健衛生学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻, 4.星城大学リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

【背景】介護者は認知症者が期待した行動をしたときの喜びと,期待した行動を裏切られたときの残念さに「認知的不協和」(Festinger L et al,1957)を感じる.この状態は不快感情と緊張状態を生じ,介護負担感を増加させる.認知的不協和の改善には,介護者が認知症者のありのままの行動を受容し,残念さを消去することが肝要である.そのためには,認知症者の行動,特に介護負担感を増加させる精神・行動障害(BPSD)の出現を前知することは極めて重要である.BPSDは身体,認知的要素が影響し合い発現するとされる一方で(Suzuki T et al,2003; Benetti G et al,1998),行動学では,行動パターンが行動の予測に重要とされている(矢口,2009).つまり,行動パターン,身体,認知の要素をデータに包含すれば,BPSD発現の予測モデルができる可能性は高い.本研究は,行動パターン,身体,認知的要素を包含したデータセットをニューラルネットワーク(NN)に投入し,BPSD陽性・陰性症状発現の予測モデルを作成,モデルに寄与する重要要素を示すことを目的とする.
【方法】対象は,認知症対応の通所リハビリテーション利用の96名である.認知症者の行動と身体機能の評価はユビキタスウェアを使用し,位置情報,歩数,運動量,運動強度,消費カロリーを出力した.一方,認知機能は精神機能障害評価スケール(MENFIS)で評価した.分析方法はBPSDの陽性・陰性の有無を従属変数,先行研究(第56回日本作業療法学会)で認知症者の位置情報を分類した常同型・確認型・無動型の3つの行動パターンを行動要素,歩数・運動量・運動強度・消費カロリーを身体要素,MENFIS下位項目の認知機能・動機付け・情動機能を認知要素としたデータセットを作成しNNに投入した.NNに用いた階層パーセプトロンは,入力層,中間層,出力層の3層構造で,入力層には,行動パターン,身体,認知の変数で構成されたデータセットを入力,中間層はノードを可変させて複数の学習モデルを作成,総合評価指標のF-Measureが最も高いモデルのノード数を採用した.出力層では,BPSD陽性・陰性の有無を出力し,さらに,予測モデルの重要要素を確認した.作成したモデルの精度評価には,K-fold交差検証でAccuracy(正解率),Precision(適合率),Recall(再現率),F-Measureスコアを算出し評価に使用した.なお,NN解析にはSPSS statistics 28.0を用いた.本研究は筆頭著者所属の倫理委員会の承認を得ている.
【結果】NNのハイパーパラメータは,BPSD陽性では,入力層のユニット数10,中間層の活性化関数はtanh関数を用い,隠れ層1,ユニット数4,出力層の活性化関数はsoftmax関数を用い,出力数2であった.陽性症状を予測する重要要素は,感情機能(100.0%),認知機能(76.8%),常同型行動パターン(46.2%)で,K-fold交差検証のスコアはAccuracy68.6%,Precision67.8%,Recall62.7%,F-Measure60.3であった.一方,陰性のハイパーパラメータは,入力層のユニット数10,中間層の活性化関数はtanh関数を用い,隠れ層1,ユニット数4,出力層の活性化関数はsoftmax関数を用い,出力数2であった.BPSD陰性症状を予測する重要要素は,歩数(100.0%),無動型行動パターン(74.6%),感情機能(62.3%)で,K-fold交差検証のスコアはAccuracy70.9%,Precision70.9%,Recall70.5%,F-Measure70.4であった.
【考察】NN解析では,BPSD陽性・陰性とも身体,認知的要素と行動パターンを重要要素とした.識者の先入観を除き,既存の枠組みに囚われない分析をするNN解析で作成された予測モデルのアルゴリズムは,既知の要素に加え,新たに行動パターンの重要性を示したと考えられる.