第57回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3

Sat. Nov 11, 2023 2:50 PM - 4:00 PM 第2会場 (会議場A1)

[OJ-3-2] 地域在住高齢者における状況図課題の理解度と認知機能特性

砂川 耕作1,2, 橋本 晋吾1, 中山 淳1, 種村 留美3 (1.関西医科大学リハビリテーション学部, 2.上ヶ原病院リハビリテーション科, 3.神戸大学大学院保健学研究科)

【序論】
 認知症は早期発見と早期介入が重要であり,軽度認知障害(MCI)段階で特徴を捉えることが求められている.また,認知症は早い段階で記憶障害だけでなく遂行機能障害,失行,言語障害に加え,視空間障害や社会的認知の低下が認められることが知られている.標準高次視知覚検査(VPTA)の状況図課題は同時失認を検出する課題であり,3人の子供の中でドーナツを取られたことに関してぬれぎぬを着せられる状況を説明する.同時失認は複数の視覚情報を同時に認知できない症状であり,視空間ワーキングメモリの低下と関連するとされている.また,状況図課題は表情といった非言語的な情報から相手の心を推測する社会的認知にも関連しており,高齢者における認知機能の低下を把握する上では有効な指標となりうる可能性がある.
【目的】
 地域在住高齢者において,状況図課題の理解度の違いから認知機能の特性を把握することを本研究の目的とした.
【方法】
 対象は本学附属病院健康科学センターに通院している既往に脳血管障害がない65歳以上の高齢者48例(平均年齢76.1±5.5歳)とした.
 方法は状況図課題とともに,神経心理学的検査として,MMSE,MoCA-J,TMT-A,TMT-B,標準注意検査(CAT)のDigit span・Tapping span,1秒ごとに出現する円が何を形作っているか答える視空間ワーキングメモリ課題のShape from moving dots task(Funayama et al. 2015)を実施した.状況図課題にてぬれぎぬまで説明が可能であった対象者を正答群,ぬれぎぬまで説明が困難であった対象者を説明困難群として2群に分け,年齢とともに各神経心理学的検査の比較をMann-Whitney U検定を用いて分析した.さらに,状況図課題の成績に影響する要因を明らかにするため,多重ロジスティック回帰分析を実施した.これらの分析はP<0.05を統計学的有意差ありとして判定した.尚,本研究は本学倫理委員会の承認後,対象の同意を得て実施した.
【結果】
 状況図課題の結果,正答群は26例(平均年齢73.7±4.5歳),説明困難群は22例(平均年齢79.0±5.3歳)であった.この2群の測定結果を比較した結果,年齢,MMSE,MoCA-J,TMT-AとB,Tapping spanのbackward,Shape from moving dots taskで有意差が得られた.つまり,状況図課題の説明困難群では,年齢が高く,MMSE,MoCA-Jで成績低下が認められ,TMTで所要時間が延長し,視空間認知の要素が必要となる課題で成績が低下した.さらに,多重ロジスティック回帰分析の結果,年齢(オッズ比:1.235,95%信頼区間1.067~1.431),TMT-A(オッズ比:1.045,95%信頼区間1.006~1.086)が有意な値を示した.
【考察】
 状況図課題において,年齢,全般的な認知機能,視覚探索や注意機能,視空間認知機能が関与しているものと思われた.中でも,年齢や視覚探索を要すTMT-Aの成績が要因として挙げられたことから,主に加齢や注意機能の低下が状況図課題に影響を与えるものと考えられた.脳血管障害症例における状況図課題では,同時失認に関連する視空間ワーキングメモリの低下が影響を与えることがあるが,地域在住高齢者の場合,より低次の認知機能の低下が影響している可能性が考えられた.加齢による影響は様々存在するため,今後,検討する余地はあるが,状況図課題といった短時間の課題が認知機能の低下を把握するきっかけになる可能性が示唆された.