第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-4] 一般演題:高齢期 4

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第6会場 (会議場A2)

[OJ-4-5] 身だしなみからBPSDの改善を図る

中村 明治 (社会医療法人親仁会みさき病院リハビリテーション科)

【はじめに】当院回復期病棟では認知症を有する患者が多く,BPSDにより退院支援が困難となっているケースが多い.そのため,回復期の作業療法において,BPSDを軽減し,ADLの改善,退院先の選択肢拡大が求められる.本研究では,整容の中でも身だしなみという視点からBPSD改善への影響を検証することを目的とした.
【対象・方法】
1)対象者:対象者:HDS-R20点以下,かつDBD1点以上の患者
(対象患者25名:男性6名,女性19名,平均年齢86.0±5.9歳)
2)方法
(1)整容・整髪・洗顔:対象者を洗面所に案内し,手洗い・洗顔・清拭の促し,支援を行う.
(2)更衣:身体機能・認知機能に応じ,更衣動作への介入を行う.実施時間は朝と夕方.
3)期間:2019.3.1~2019.6.30
【倫理的配慮】倫理的配慮として,本研究はヘルシンキ宣言に基づいて倫理的配慮を行い実施した.個人が特定されないこと,また得られたデータは発表以外の目的では使用しないことを説明し同意を得た.
【効果判定】総計学的解析は,入院時と入院3か月後のFIM下位項目得点(整容,上・下衣更衣),HDS-R得点,DBD28得点をWilcoxonの符号付き順位和検定を用いて比較した.なお,危険率5%未満をもって有意とした.
【結果】入院時と入院3か月後の各調査項目の比較について,FIM整容(p<0.01),FIM上衣更衣(p<0.01),FIM下衣更衣(p<0.01),DBD(p<0.01)において有意な改善を認めた.
【考察・まとめ】
入院や転院による急激な環境変化に適応することは誰しも容易ではなく,認知機能に問題が生じやすい状況である.また,入院の直接的な原因となった疾患や加齢,環境因子なども加わり,離床も困難となりやすい.『脳卒中治療ガイドライン2015』では,「不動・廃用症候群を予防し,早期の日常生活動作の向上と社会復帰を図るために,十分なリスク管理のもとにできるだけ発症早期から積極的なリハビリテ―ションを行うことが勧められる」としている.つまり,過剰な臥床による不動により認知機能が廃用し,せん妄状態となり,中核症状が増悪,付随してBPSDも増悪するという悪循環が起こりやすい.
 このような環境を打開するために,身だしなみを整え,客観的な自分を見つめるという作業(日課)がBPSD改善に有効なのではないかと仮説を立て,取り組みを行った.取り組みの中で,身だしなみ誘導漏れや病棟ルーチン業務とのスケジュール調整,整容・更衣以外のADL練習の時間配分などの問題が挙がった.その都度,取り組みの必要性を多職種と確認し,対象者と共に身だしなみを継続して行った.
今回の取り組みを経て,認知機能の改善について各評価において有意差は認められなかった.しかし,DBD28においては点数の改善が見られ,点数には表れていないが望ましい変化もみられた.点数以外にも身だしなみを整えていく中で,目的を持った離床が図れ,社会的交流が生まれるきっかけとなり,生活リズムの安定につながったと考える.居室に閉じこもっていては外的刺激が乏しくなり,廃用症候群の進行が容易に予測される.また見た目で他者から評価されてしまうため,他者から興味を持ってもらいにくくなり,交流の発展の妨げにもなってしまうのではないだろうか.
今回の取り組みの結果を多職種で共有し,対象者のADL拡大と退院の選択肢拡大を図るために今後も継続して取り組んでいきたい.