第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-1] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

2023年11月10日(金) 12:10 〜 13:10 第6会場 (会議場A2)

[OK-1-1] 半側空間無視の回復と代償に関連する神経生理学的特徴

上田 将也1, 由利 拓真2, 上野 慶太1, 石井 良平1, 内藤 泰男1 (1.大阪公立大学リハビリテーション学研究科, 2.京都大学医学部附属病院リハビリテーション部)

目的:半側空間無視(USN)は,損傷した半球の反対側の空間における刺激の検出と反応が困難になる症状であり(Heilman 1979),慢性期には約20%の患者に残存する(Esposito 2021).これまでにUSNと関連する神経基盤は広く研究され,様々な非薬物療法がUSN患者に実施されてきた.しかし,長期的な効果や日常生活動作(ADL)に対する効果が乏しいことが指摘されている(Longley 2021).したがって,USN患者のADL改善を目的とした介入には未だ課題が残っている.そこで,本研究の目的は,USNの回復と代償,およびADL改善に関連する神経基盤や神経生理学的特徴を明らかにすることとした.
方法:2002年1月1日から2022年6月1日までに発表された論文について,Preferred Reporting Systems for Systematic Reviews and Meta-Analyses Extension for Scoping Reviews(PRISMA-ScR)に基づき,PubMed,CINAHL,The Cochrane Central Register of Controlled Trial,MEDLINEおよびSCOPUSデータベースで検索した.脳卒中後のUSNの回復と脳画像および脳機能測定法の関連を調べた研究を探索するために,検索式は(spatial neglect OR USN OR hemispatial neglect) AND (recovery OR recover OR improvement OR improve OR compensatory OR compensation OR compensate OR cover AND electroencephalography OR electroencephalogram OR EEG OR functional magnetic resonance imaging OR fMRI OR magnetoencephalogram OR MEG OR MRI OR fNIRS OR near infrared spectroscopy OR PET OR positron emission tomography OR SPECT OR single photon emission computed tomography OR DTI OR diffusion tensor imaging)とした.データベース検索は 2022 年 6 月 30 日に終了した.PRISMA-ScRで開発された標準的な批判的評価手段を用いて,2名の独立した査読者が批判的評価を行った.
結果:合計239件の論文が同定され,14件が最終的なレビューに含まれた.脳卒中直後の急性期から慢性期まで幅広い臨床病期のUSN患者を対象とした.脳卒中後のUSNの回復に関連する神経基盤の調査方法は,MRI画像(4件),functional MRI(8件),脳波(2件)に分類された.USNの評価は,ほとんどの研究がBehavioral Inattention Test(BIT)またはその下位項目を用いていた(11件).Catherine Bergego Scaleの結果を用いた論文が4件あったが,神経生理学的特徴との関連は検討されていなかった.また,神経生理学的データとADL能力の関連を検討した論文は認められなかった.USNの回復と代償獲得に関連する神経生理学的特徴は,急性期で右半球のVentral Attention Networkの損傷が少ないこと,亜急性期以降では対側半球を含む空間的注意ネットワーク領域の活性化とそれらの間の結合の増加,視覚探索課題時の前頭葉のθ/α比に示されるような左前頭前野の代償的活性化があることが挙げられた.
考察:本研究から,USNの回復と代償に関連する神経生理学的指標として,脳の構造と機能的結合性が最も多く調査され,USNの回復が空間性注意ネットワークの状態に影響を受けることが示された.また,ADL上のUSN改善に関係する神経生理学的特徴は,明らかにされていなかった.BITなどの机上検査におけるUSN の改善は,前頭葉,特に左前頭前野の代償的活動によって支えられている可能性が高いことから,前頭葉の活動がADLの改善に関与するという仮説が得られた.