第57回日本作業療法学会

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一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-1] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 1

Fri. Nov 10, 2023 12:10 PM - 1:10 PM 第6会場 (会議場A2)

[OK-1-2] 自己身体無視により更衣練習の導入及び介入に難渋した事例への工夫

西 友希, 藤野 悦路, 池田 優樹 (畷生会脳神経外科病院リハビリテーション科)

【はじめに】更衣は人が日々行う身繕いの側面を担うと共に,アイデンティティ情報を他者に提供するコミュニケーション媒介の一種である.今回,普段着が袢纏(はんてん)であった自己身体無視を呈する事例に対して,親族との交流機会における身だしなみという意味づけがリハビリテーションに取り組む意欲に繋がり,袢纏の着衣動作自立に繋がったため報告する.
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,発表について本人に口頭および書面にて説明をして同意を得た.
【事例】70歳代男性,右利き.右心原性脳塞栓症.MRIにて右の上中側頭回,下頭頂小葉,中心前後回を含む皮質,白質領域に高信号域を認める.日頃より多くの親族に囲まれた生活だったと家族より情報あり.
【神経学的所見】左上下肢重度片麻痺および感覚脱失.
【前期評価・訓練】HDS-R:23点,One item test:スコア2,Fluff test:見落とし16個(左半身),BIT通常検査:71点,J-CBS観察:23点・自己:5点・病態失認:18点,FMA-UE:0点,Hoffer座位能力分類(以下Hoffer):3,Functional Dressing Assessment前開き服の着衣(以下FDA):9点.着衣不十分なことについては理解に乏しく,鏡で理解を促すも「やってもらうんで大丈夫です」と訓練に消極的であった.また,当事例の普段着は袢纏であり,袢纏であれば袖口が広いため自身で着れるとの言葉も聞かれた.そこで,家人に袢纏を用意してもらい,再度評価を行った. 評価結果について,鏡および録画映像にてFBを行い,認知的気づきを促すとともに,同上の結果となったことを踏まえ,面接にて更衣は毎日行う作業であることと,親族と会う際の身だしなみについて言及した.
結果,はじめは積極的ではなかったが,訓練を通して徐々に自発的に着衣練習の準備をする行為が見られ,「やりましょか」と能動的な発言も聴かれるようになった.
しかし,FBに対して多少の問題点への気づきの発言は聴かれるものの,訓練時には機能的に困難であるという訴えや,動作定着の面で難を示した.
そこで,FDAの工程に合わせて注意点を改めて教示し,まずは分割して各工程1つ1つに対して事例が機能的には実施可能なことを経験・共有した.また,実演時には毎工程でセラピストが失敗の原因となる動作を回避できるよう教示を行い,動作の定着度合いに合わせて「次はどうするか」といった次の動作の自発想起を促す声掛けにシフトした.
最終的にはシェーピングにて徐々に言語的教示を減らし,エラーレスな着衣と動作定着を図った.再評価ではFluff testにて左肩のみ見落としが見られ,着衣においても左肩を合わせることに困難を示した.それを踏まえ,右袖を通す前後に左肩の確認をするよう工程を追加し,計2回の確認を行うよう依頼した.結果,徐々に左肩への確認作業も定着し,動作の修正が成された.
【後期評価】HDS-R:24点,One item test:スコア1,Fluff test:見落とし0個,BIT通常検査:134点,J-CBS観察:6点・自己:5点・病態失認:1点,FMA-UE:0点,Hoffer:2,FDA:16点.
【考察】当事例は左の自己身体無視および重度の片麻痺と感覚障害を呈していたことに加え,訓練意欲の乏しさが課題への取り組みにくさに繋がっていた.神経心理ピラミッドの最もベースとなる訓練意欲に繋げるため,事例が日頃から身に付けていた袢纏という媒体を使用し,面接では自身の親族間におけるポジションと,親族との対面時における服装に焦点を当て,身だしなみの意識化を促すことで,目標の明確化と気付きの促進に繋がったと考える.