[OK-1-5] 幻視への対処行動により症状を軽減できた中枢神経原発悪性リンパ腫の1症例
【はじめに】
左後頭葉の中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)患者において,生検術後に右同名半盲視野内に様々な幻視が生じた.幻視に対する恐怖心は症状理解を得ることで消失し,対処行動をとることで幻視を軽減できた.本患者の経過について考察を加えて報告する.なお本発表に際して患者に対して説明を行い,同意を得た.
【症例】
70歳代女性,失読を主訴に当院に入院した.MRIで左後頭葉を主座とする腫瘤が指摘され,側頭葉に及ぶ広範な浮腫を伴っていた.入院翌日から作業療法(OT)を開始,入院8日目に定位脳生検術を施行され,PCNSLと診断された.
【治療初期】
術前の神経症状として右同名半盲,右半側空間無視(線分二等分試験で左へ23%偏移),失読(WAB失語症検査は読字,呼称,書字で減点)を認めた.運動麻痺や感覚障害はなかった.定位脳生検術後5日(POD5)に右同名半盲視野内に白いもやもやしたものが見える単純幻視を認め,夜間に生じることから恐怖心を伴っていた.テレビ画面の残像が視野右端に見える幻視(視覚保続)も認めた.POD13よりスマホのアイコンがスマホを見ていない時にモノクロとなって現れる幻視(視覚保続),もやもやした男性の形が見え続ける複雑幻視を認めた.
【OT介入】
幻視が霊的現象などの体験ではなく後頭葉病変で通常生じうる症状であると説明した.患者には幻視の詳細を言語化するよう促し,頻度の多い時間帯や生じやすい状況などを聴取した.成書や先行研究と同様に,夜間,薄暗い視界,身体的/精神的疲労で幻視が生じやすいことを確認した.患者がこれらの症状をよく理解した結果,恐怖心は速やかに消失した.幻視が生じた際には,頭部回旋や眼球運動で視野を移す,閉眼して休息するなどの対処行動をとることで症状を軽減させた.
【治療後期】
POD12から化学療法が6コース施行された.ADLは自立しておりコース毎に一時退院した.3コース施行後,POD40には右側で時折さっと何かが通り抜ける単純幻視のみとなり,対処行動をとるべき状況に至らなくなった.6コース施行後(POD96),MRIで左後頭葉の腫瘍縮小,側頭葉の浮腫改善を認めた.視野検査で右同名半盲は右上四分盲に改善した.幻視および失読はほぼ消失し,線分二等分試験は左へ2%偏移にまで改善した.POD98に治療完遂して自宅退院した.
【考察】
幻視は自覚的症状であり,明らかな不都合や感情的反応が伴わないと訴えない場合がある.本患者の幻視は恐怖心を伴い,種類が多様であったのが特徴的であった.OTではまず恐怖心に対する介入が必要と考え,言語化を促して幻視の特徴を患者とともに分析し症状理解を得た.幻視が生じやすい状況が相互によく理解されたことで,OTが提案した対処行動が実場面で有効に働き,幻視を軽減できた.幻視は数カ月で消失することが多いと言われるが,長期残存例では視覚野と側頭葉を結ぶ白質路の構造的変化が生じるという報告がある.本患者の術前画像では後頭葉と側頭葉を結ぶ視覚路が一時的に障害されていた可能性があり,治療初期から幻視への対処を行い症状の軽減ができたことは早期改善に寄与したかもしれない.さらに,速やかに恐怖心を取り除き対処行動を確立したことは,本患者の心理的負担を低減させ,安心して院内生活を送り治療を完遂するために重要な役割を果たした.
左後頭葉の中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)患者において,生検術後に右同名半盲視野内に様々な幻視が生じた.幻視に対する恐怖心は症状理解を得ることで消失し,対処行動をとることで幻視を軽減できた.本患者の経過について考察を加えて報告する.なお本発表に際して患者に対して説明を行い,同意を得た.
【症例】
70歳代女性,失読を主訴に当院に入院した.MRIで左後頭葉を主座とする腫瘤が指摘され,側頭葉に及ぶ広範な浮腫を伴っていた.入院翌日から作業療法(OT)を開始,入院8日目に定位脳生検術を施行され,PCNSLと診断された.
【治療初期】
術前の神経症状として右同名半盲,右半側空間無視(線分二等分試験で左へ23%偏移),失読(WAB失語症検査は読字,呼称,書字で減点)を認めた.運動麻痺や感覚障害はなかった.定位脳生検術後5日(POD5)に右同名半盲視野内に白いもやもやしたものが見える単純幻視を認め,夜間に生じることから恐怖心を伴っていた.テレビ画面の残像が視野右端に見える幻視(視覚保続)も認めた.POD13よりスマホのアイコンがスマホを見ていない時にモノクロとなって現れる幻視(視覚保続),もやもやした男性の形が見え続ける複雑幻視を認めた.
【OT介入】
幻視が霊的現象などの体験ではなく後頭葉病変で通常生じうる症状であると説明した.患者には幻視の詳細を言語化するよう促し,頻度の多い時間帯や生じやすい状況などを聴取した.成書や先行研究と同様に,夜間,薄暗い視界,身体的/精神的疲労で幻視が生じやすいことを確認した.患者がこれらの症状をよく理解した結果,恐怖心は速やかに消失した.幻視が生じた際には,頭部回旋や眼球運動で視野を移す,閉眼して休息するなどの対処行動をとることで症状を軽減させた.
【治療後期】
POD12から化学療法が6コース施行された.ADLは自立しておりコース毎に一時退院した.3コース施行後,POD40には右側で時折さっと何かが通り抜ける単純幻視のみとなり,対処行動をとるべき状況に至らなくなった.6コース施行後(POD96),MRIで左後頭葉の腫瘍縮小,側頭葉の浮腫改善を認めた.視野検査で右同名半盲は右上四分盲に改善した.幻視および失読はほぼ消失し,線分二等分試験は左へ2%偏移にまで改善した.POD98に治療完遂して自宅退院した.
【考察】
幻視は自覚的症状であり,明らかな不都合や感情的反応が伴わないと訴えない場合がある.本患者の幻視は恐怖心を伴い,種類が多様であったのが特徴的であった.OTではまず恐怖心に対する介入が必要と考え,言語化を促して幻視の特徴を患者とともに分析し症状理解を得た.幻視が生じやすい状況が相互によく理解されたことで,OTが提案した対処行動が実場面で有効に働き,幻視を軽減できた.幻視は数カ月で消失することが多いと言われるが,長期残存例では視覚野と側頭葉を結ぶ白質路の構造的変化が生じるという報告がある.本患者の術前画像では後頭葉と側頭葉を結ぶ視覚路が一時的に障害されていた可能性があり,治療初期から幻視への対処を行い症状の軽減ができたことは早期改善に寄与したかもしれない.さらに,速やかに恐怖心を取り除き対処行動を確立したことは,本患者の心理的負担を低減させ,安心して院内生活を送り治療を完遂するために重要な役割を果たした.