第57回日本作業療法学会

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一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-2] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

Sat. Nov 11, 2023 12:30 PM - 1:30 PM 第7会場 (会議場B3-4)

[OK-2-1] 回復期リハビリテーション病棟入院中に職場の上司と面談し,復職が可能となった高次脳機能障害患者4事例に関する報告

中島 恵美 (医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院リハビリテーション部)

【序論・目的】脳卒中者の就労は医療機関と職場の連携が重要である.本報告の目的は,回復期リハ病棟入院中に職場上司と面談を実施した高次脳機能障害者について,面談の内容が復職に与えた影響や課題について考察することである.
【対象と方法】対象は,2021年2月から10月の間に当院回復期リハ病棟に入院し,復職に向けて職場上司と面談を実施した高次脳機能障害者4名である.面談は主治医,リハ専門職,MSW,家族,職場上司が参加し,リハ専門職は患者の病状説明及び復職後の業務調整案を提示した.復職後の経過は作業療法士が電話連絡し,面談の内容が復職に与えた影響について聴取することとした.本報告は当院臨床研究倫理審査小委員会の承認を受けた.対象者へは書面による説明と同意を得た.
【結果】
<事例1>製薬会社の工場長で研究職の50代男性.左被殻出血で運動性失語症となった.退院時BRSは右上肢Ⅱ手指Ⅱ下肢Ⅳ,短下肢装具を使用し屋外歩行が自立した.第151病日に面談を実施,第249病日に復職し,2階級の降格の主任研究員となった.事例の会社では障害者の復職訓練として段階的に勤務時間や業務量を増やすマニュアルがあることから,面談で提示した業務調整案による効果は少なかった.事例は入院中の面談について,職場関係者との話し合いは約20分で,病状を理解してもらうには不十分だったと話した.新型コロナウイルス感染対策で面会制限されていたが,回数を重ねて話す機会が欲しかったと述べた.
<事例2>印刷会社工場勤務の40代男性.くも膜下出血で記憶障害があったが運動麻痺はなく,屋外歩行は自立した.第185病日に面談を実施,第387病日に復職した.事例1と同様に会社では復職訓練のマニュアルがあり,業務は手順書を渡されて実施していた.業務は工場での反復作業が主体で,記憶障害の影響は少なかった.事例は入院中の面談について,現場作業が中心となることから入院中に働く状況を想像することは難しかったと述べた.
<事例3>電力会社の主任事務職員の40代女性.くも膜下出血で注意障害があったが,運動麻痺はなく,屋外歩行は自立した.第78病日に面談を実施,第191病日に復職した.復職時,職場の産業医は事例に対してフルタイム勤務を指示したが,入院中に面談に参加した上司が時短勤務を提示し配慮してくれた.しかし,上司は部署異動となり,新しい上司からは障害に対する理解が得られにくくなったと述べた.
<事例4>不動産賃貸業で事務職の50代女性.右被殻出血で注意障害があり,退院時BRSは左が全てⅤ,T字杖と短下肢装具を使用し屋外歩行は自立した.第104病日に面談を実施,第221病日に復職した.面談に参加した上司は,事例の復職当初は配慮してくれたが,徐々に事例の障害を考慮せずに社員の前で叱責を繰り返し,「高次脳機能障害のことは聞いていない」と発言した.部署内での事例は,仕事が出来ない職員として扱われいるとのことであった.事例の内縁の夫は入院中の面談について,高次脳機能障害を証明する診断書が欲しかった,作業療法士が提示した業務調整案の書類には会社の同意を得て署名を残すべきだと要望した.
【考察】職場側に障害の理解を促進するには医療者側の病状説明だけでなく,患者が実際に職場関係者と話を交わし,注意力や記憶力,言語能力の特徴を知る時間が必要である.職場全体が事例の障害を理解することや部署異動に備えて,入院中から障害を証明する書類を作成したり,医療者側が提示した業務改善案に会社の同意と署名を求める対応が必要と考える.