第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-2] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

2023年11月11日(土) 12:30 〜 13:30 第7会場 (会議場B3-4)

[OK-2-5] 逆方向連鎖化を用いてスマートフォンにて家族と連絡をとれるようになった事例

宇田川 笑花1, 野村 健太2, 乙黒 竜一1 (1.医療法人社団 輝生会 初台リハビリテーション病院回復期支援部, 2.目白大学 保健医療学部 作業療法学科)

【はじめに】現代社会においてスマートフォン(以下,SP)は行政サービスや医療施設における面会に利用されており,生活に必要不可欠な存在となった.そのため,高齢者や認知症者等にとってSP操作ができなければ生活制限やコミュニケーションが不足する要因となりうる.近年,応用行動分析学的技法を用いた逆方向連鎖化と段階的難易度設定をした無誤学習による動作練習方法が報告されている(山﨑,2016).逆方向連鎖化とは,動作の流れの逆側から流れをつないでいく方法(山﨑,2022)であり,主に基本動作へ応用する報告は散見されるが,SP操作をはじめとするIADLにおける研究は見当たらない.本研究の目的は,逆方向連鎖化の技法を用いてSP操作の再獲得に向けた介入の効果を検証することである.
【方法】研究デザインは事例研究を用いた.対象は70歳代男性のA氏である.診断名は廃用症候群であり,既往歴はパーキンソン病,アルツハイマー型認知症を罹患していた.X年Y月Z日に食事中にむせ込み,急性期病院にて誤嚥性肺炎と診断され,Z+21日に当院回復期病棟入棟となった.Mini-Mental State Examination (以下,MMSE)は27点, カナダ作業遂行測定 (以下,COPM)は,SP操作の重要度が8,遂行度1, 満足度1であった.介入前は電源を入れる操作から困難であり,「前は出来てたけど,出来なくなった」と否定的な感情反応が目立っていた.介入の基本方針は,A氏の自信回復に繋げるために,予め目標達成までの段階を設ける,練習の最後に必ず家族に連絡する成功体験を積んで賞賛してから終了することとした.各段階の練習回数はA氏の疲労に留意し,本人の発言や表情に配慮し段階を増やしていった.目標は,4週間でSPにて家族と連絡をとれるようになることとした.尚,筆者が所属する施設の倫理審査を受けており,A氏には,口頭・紙面にて承諾を得ている.
【結果】Y+1月Z+12日に介入を開始した.1段階目は,送信ボタンを押す操作を練習した.無誤学習を行うため,指を誘導する,指を差す,模倣する,声を掛ける,と徐々に手がかりを減らした.1段階目にて,奥様から「連絡が来て嬉しかった」と本人へ連絡が来たことで,「嬉しいな,携帯やるか」と最終的な見通しをもつことで意欲的な発言が聞かれた.2段階目は,文字入力を練習した.既往のパーキンソン病の症状を考慮し,タップが少ないフリック入力を選択した.しかし日内変動により無動症状が出現し,誤操作が見受けられたため,SP用の太柄のタッチペンを導入し改善した.3~5段階目は,文字盤を出す,家族のトーク画面を選択する,ホーム画面からアプリ選択操作の練習を行った.6段階目はSPのロック解除操作,7段階目はSPの電源操作,の全7つの行動要素に課題分析し,1段階から7段階に向かって順に練習を行った.段階を踏む毎に,主体的な発言が増え余暇時間での実施希望も聞かれた.最終的に余暇時間にSPの電源を入れトークを開くことが可能となったためX年Y+2月Z+15日に介入を終了.MMSE29点,COPMは遂行度6,満足度7へと改善した.
【考察】 A氏はSPのタップやスライドといった基本的な操作技術はあるものの,記憶と遂行機能に問題があり,もう出来ないものといった認識であった.しかし,逆方向連鎖化により,目標となる行為の最終段階から成功体験を積み重ねることで,A氏の動機付けに繋がり,出来るものといった認識へと変化したと考えられる. 従って,逆方向連鎖化の技法は,遂行機能と動機付けに問題のある高齢者におけるSP操作の再獲得にも効果がある可能性が示唆された.本研究は事例研究のため,他の介入と比較して効果があるかどうかは不明である.