第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-3] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3

2023年11月11日(土) 14:50 〜 16:00 第3会場 (会議場B1)

[OK-3-1] Mild Cognitive Impairmentの新たなスクリーニング評価の開発

田丸 佳希1, 隅野 裕之2, 田中 歩3, 松下 太1, 松木 明好4 (1.森ノ宮医療大学総合リハビリテーション学部, 2.介護老人保健施設サンガーデン府中, 3.介護老人保健施設ヴァンサンク, 4.四條畷学園大学リハビリテーション学部)

【はじめに】
 MCIは適切な治療によって健常な状態に回復する可能性が指摘されている.しかし,MCIは目立った症状がない為,早期発見が極めて困難である.昨今,MCIでは実行機能障害(Kirova 2015),作業記憶障害(Saunders 2011),注意障害(Ashendorf 2008),視覚構成障害(Lehrner 2015),および巧緻動作能力の低下(Tamaru 2020)が現れることがわかってきた.そこで我々は,これらの要素を包括的に混在させたスクリーニング評価であるCognitive Composition Test (CCT)を開発した.CCTは,評価や結果の解釈に専門知識を必要としないので自宅でも簡単に行うことが出来るという利点がある.本研究ではこのCCTが,MCIの早期発見に有効であるか検証することを目的とした.
【方法】
 Sample Sizeの算出にはGPowerを用いた.MCI高齢者32名(MCI群),健常高齢者67名(Control群)であり,MCI高齢者の定義は,Montreal Cognitive Assessment (MoCA)が25点以下でMMSEが24-27点の者.健常高齢者はMoCAが26点以上でMMSEが28-30点の者とした.被験者はMCIの識別に有効とされるTrail Making TestとCCTを実施した.CCTの検査は,数字が書かれた棒を使って見本図形と同じ図形を作図し,遂行時間を計測する検査である.使用する棒の本数と棒の重なり箇所の数で難易度を3段階(CCT-A, -B, -C)に設定した.倫理的配慮には全被験者とご家族に研究の説明を行い,書面にて同意を得た者のみを対象とした.なお,本研究は,研究代表者所属の倫理審査委員会の承認(No.21.5)を得て実施した.統計学的演算にはSPSS (ver.28)を用い,①MoCAとCCTの併存的妥当性にはPearsonの相関係数,②2群間の比較ではShapiro-Wilk testで全データの非正規性が確認された為,Mann-Whitney U検定,③識別精度と最適Cut-off値は,Receiver operating characteristic (ROC)とYouden Indexで算出した.統計学的有意水準はそれぞれ5%未満とした.
【結果】
 MoCAとCCTの相関は,CCT-B(r=-0.456, p=0.000),CCT-C (r=-0.713, p=0.000)であり共に負の相関を認めた.TMT-AとCCT-Aの2群間比較の結果では,有意差が認められなかったが,TMT-BではMCI群 [Median (25–75%): 82.4 (76.5-84.1)秒]が,Control群 [80.2 (72.5–83.6)秒]よりも有意に遅延した (p=0.037).CCT-CでもMCI群 [70.6 (67.6- 82.7)秒]が,Control群 [62.6 (55.5–71.3)秒]よりも有意に遅延した(p= 0.001).識別精度ではTMT-BのArea Under the Curve (AUC)が0.630 (p=0.037),最適cut-off値が73.55秒(感度:91%, 特異度:37%)であった.CTT-CのAUCが0.867 (p=0.000),最適cut-off値が65.75秒 (感度:84%,特異度:78%)であった.
【考察】
 TMT-Bは,TMT-Aの要素に加えて言語知能,二重課題,記憶,精神維持能力が含まれたより複合的な課題であり,精神的負荷量や難易度も高くなる(Reitan1971).Ashendorf(2008)は,TMT-BがMCIの識別に有効であることを報告しており,MCI 高齢者と健常高齢者を識別するには課題の構成要素や難易度が大きく影響していると考えられる.CCT-Cの難易度になるとTMT-BやCCT-B よりもAUCが0.867と高く,Akobeng (2007)らは,AUC値が0.7~0.9であれば"Appropriate Level"の識別精度を示すと報告している.つまり,CCTの課題要素がMCIの初期症状に着目していること,さらにCCT-Cの難易度が適合し,TMT-Bより高い識別精度を示したのではないかと考えられた.これらのことからCCT-Cは,迅速かつ簡便にMCIを識別するのに有効であることが示された.