[OL-1-3] 作業療法士が関わる介護ロボット開発支援の紹介
【はじめに】 兵庫県立福祉のまちづくり研究所(以下,研究所)では,2017年より介護ロボット開発に向けた相談や機器の実証評価,共同開発等を実施している.相談対応は医師や作業療法士,エンジニア等や医療・介護機関の協力を得て,これまで134件(2021年度末)の支援を実施した.
今回,介護現場のニーズを基に研究所が発案した排泄動作支援に関する介護ロボットを企業と共同開発した.作業療法士の視点が機器の開発に重要な役割を果たし,製品化に至ったため,その過程について報告する.本機器は『国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)』の2019年度「ロボット介護機器・開発補助事業」の採択を受け開発された.
【排泄動作支援機器『SATOILET』の開発】 研究所の医師・作業療法士が「トイレでのリジッドな可動式胸部支持部もしくは可動手すり機構による身体の引き上げ補助」を着想し,エンジニアが機器の形状と動作機構のアイデアを落とし込む形で開始した.開発を担当した企業(株式会社がまかつ)は介護・医療業界との接点がないため,入念な検討を重ね以下のキーコンセプトを整理した.
1.介助者の身体的負担の軽減:立ち上がり,下衣着脱,清拭における抱え上げ動作を代替し,持ち上げない介護を提供する.
2.介助人数の削減:2人介助であった排泄介助を1人介助で可能にする.
3.排泄時の座位保持機構の提供:介助者の代わりに適度な柔軟性を持つカーボン製支持アームで体を支えることにより利用者は1人で排泄ができ,尊厳を保つことができる.
4.頭上設置型による効率的な空間利用:足元空間を広く利用するとともに,機器収納のための床面積を不要とする.また,機器重量を感じずに取り回し性を高める.
【開発過程と作業療法士の役割】 ロボット介護機器開発のV字モデル¹⁾になぞらえると,開発初期では人との関係の層にある課題,活動,要素動作の明確化において,現場からのニーズ調査や開発機器のコンセプトを整理し,現場の実態を企業と共有した.介護業界と縁のない企業であったため,専門用語を用いず,現場の課題を分かりやすく翻訳し丁寧に説明した.
工学システムの層における機器の開発では,イメージに沿った試作機の作成と評価検証を繰り返した.評価は科学的な根拠として,立ち上がりにおける頭部の軌道や体幹支持部における身体にかかる圧力を評価し,要素動作での再検証や修正点を提案した.
試作機の機械的な安全性を確認した後,倫理審査を経て特別養護老人ホームにおいて実証評価を実施した.施設所属の作業療法士と共同し,対象者の選定から機器の運用方法,検証前のトレーニングを入念に行った.また,実証評価において判明した課題を分析し,改善案を提案する中で改良を重ね,2021年12月より排泄動作支援機器SATOILET(サットイレ)として製品化された.
【まとめ】 機器開発における作業療法士の役割は,使う側(ニーズ)と作る側(シーズ)の通訳とマッチング,使う上での安全性の検証,対象者像の明確化,有効性の検証など幅広く,そのための知識も必要となる.また,エンジニアとの協働も重要であり,機器の着地点や制度との関係性,「している活動」や「参加」に対する効果検証などについても早期から検討することが必要となる.このような視点で支援が行える職種として,作業療法士が機器開発に関わることで,実用的な開発支援につながると考えられる.
【文献】1)AMEDロボット介護機器開発・導入促進事業基準策定評価コンソーシアム:ロボット介護機器実証試験ガイドライン.P12.2018
今回,介護現場のニーズを基に研究所が発案した排泄動作支援に関する介護ロボットを企業と共同開発した.作業療法士の視点が機器の開発に重要な役割を果たし,製品化に至ったため,その過程について報告する.本機器は『国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)』の2019年度「ロボット介護機器・開発補助事業」の採択を受け開発された.
【排泄動作支援機器『SATOILET』の開発】 研究所の医師・作業療法士が「トイレでのリジッドな可動式胸部支持部もしくは可動手すり機構による身体の引き上げ補助」を着想し,エンジニアが機器の形状と動作機構のアイデアを落とし込む形で開始した.開発を担当した企業(株式会社がまかつ)は介護・医療業界との接点がないため,入念な検討を重ね以下のキーコンセプトを整理した.
1.介助者の身体的負担の軽減:立ち上がり,下衣着脱,清拭における抱え上げ動作を代替し,持ち上げない介護を提供する.
2.介助人数の削減:2人介助であった排泄介助を1人介助で可能にする.
3.排泄時の座位保持機構の提供:介助者の代わりに適度な柔軟性を持つカーボン製支持アームで体を支えることにより利用者は1人で排泄ができ,尊厳を保つことができる.
4.頭上設置型による効率的な空間利用:足元空間を広く利用するとともに,機器収納のための床面積を不要とする.また,機器重量を感じずに取り回し性を高める.
【開発過程と作業療法士の役割】 ロボット介護機器開発のV字モデル¹⁾になぞらえると,開発初期では人との関係の層にある課題,活動,要素動作の明確化において,現場からのニーズ調査や開発機器のコンセプトを整理し,現場の実態を企業と共有した.介護業界と縁のない企業であったため,専門用語を用いず,現場の課題を分かりやすく翻訳し丁寧に説明した.
工学システムの層における機器の開発では,イメージに沿った試作機の作成と評価検証を繰り返した.評価は科学的な根拠として,立ち上がりにおける頭部の軌道や体幹支持部における身体にかかる圧力を評価し,要素動作での再検証や修正点を提案した.
試作機の機械的な安全性を確認した後,倫理審査を経て特別養護老人ホームにおいて実証評価を実施した.施設所属の作業療法士と共同し,対象者の選定から機器の運用方法,検証前のトレーニングを入念に行った.また,実証評価において判明した課題を分析し,改善案を提案する中で改良を重ね,2021年12月より排泄動作支援機器SATOILET(サットイレ)として製品化された.
【まとめ】 機器開発における作業療法士の役割は,使う側(ニーズ)と作る側(シーズ)の通訳とマッチング,使う上での安全性の検証,対象者像の明確化,有効性の検証など幅広く,そのための知識も必要となる.また,エンジニアとの協働も重要であり,機器の着地点や制度との関係性,「している活動」や「参加」に対する効果検証などについても早期から検討することが必要となる.このような視点で支援が行える職種として,作業療法士が機器開発に関わることで,実用的な開発支援につながると考えられる.
【文献】1)AMEDロボット介護機器開発・導入促進事業基準策定評価コンソーシアム:ロボット介護機器実証試験ガイドライン.P12.2018