第57回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-1] 一般演題:地域 1

Fri. Nov 10, 2023 12:10 PM - 1:10 PM 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-1-5] 地域高齢者における作業参加状況による14年後の慢性疾患有病率のリスク比

今井 忠則1, 小林 昭博2, 前場 洋佑1 (1.北里大学医療衛生学部, 2.群馬医療福祉大学リハビリテーション学部)

【背景と目的】一般住民を対象としたヘルスプロモーションや疾病予防における作業療法の役割は近年ますます重要となってきている.作業参加(occupational participation)のあり方が心身の健康を左右する決定要因であることを作業療法は基本的仮説としている(CAOT, 2007).公衆衛生の3大目標は「疾病予防,寿命の延長,生活の質の向上」とされ(中村,2006),その目標に応える疫学的指標(罹患率・有病率,死亡率,各種QOL指標)に対する有効性を示すことが期待される.しかし,作業参加に着目した疫学的根拠は十分とはいえず,特に縦断研究は少なく10年以上の長期追跡となると見当たらない.そこで長期的視点で作業参加が疾病予防に及ぼす影響を検討するため,著者らが2007年から実施した1年間の追跡調査の参加者を対象に新たにフォローアップ調査を実施した.本研究の目的は,地域高齢者における作業参加状況(当初1年間の変化)が14年後の慢性疾患の有病率(診断の有無)に及ぼす影響を明らかにすることである.
【方法】本研究デザインは前向きコホート研究である.作業参加状況の良好群と不良群を設定し,14年後の慢性疾患の有病率を比較した.初回調査(2007.06-),1年後(2008.06-),14年後(2021.10)の3時点の追跡調査データを使用した.茨城県在住の地域高齢者を対象に,初回調査は集合配布・自宅記入の方法で実施し542/577名の参加があった.1年後調査は郵送法で実施し498/542名の参加があった.14年後調査は郵送法で実施し390/498名の参加があった(14年間追跡率72.0%).
 作業参加の測定は自記式作業遂行指標(SOPI)(今井ら,2010)を使用し,初回調査から1年後までのSOPI合計点の変化量から,作業参加状況の良好群(0点以上)と不良群(-1点以下)の2群を設定した.慢性疾患の有病率(割合)は14年後調査時における医師からの診断の有無(自己報告)で算出した(2007年以前からの診断は除いた).H29年度患者調査(厚生労働省)を参考に代表的な慢性疾患カテゴリー19種+その他の計20選択肢から多肢選択で回答を求めた.分析は,不良群に対する良好群の各慢性疾患の有病率のリスク比を検討した.本研究は所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て実施し,倫理規定に則り,個人情報保護や研究同意手続きを行った.
【結果】死亡等による家族回答(25名)及びSOPI変化量の欠損者(9名)を除いた最終的な分析対象者は356名(平均年齢77.1±4.6歳,範囲64-90歳)で,良好群は240名(女性197名,74.6%),不良群は116名(女性96名,82.8%)であった.そして,2群間で差が認められた慢性疾患は以下の2種であった.
 ①心疾患(心不全,心筋梗塞,※高血圧性を除く):全体の有病率18/350名(5.14%),良好群8/237(3.38%),不良群10/113(8.85%),相対リスク0.381,95%CI [0.155-0.940],p=0.039)
 ②脊柱・脊髄障害(腰痛,椎間板ヘルニア,狭窄症等):全体32/349(9.17%),良好群16/235(6.81%),不良群16/114(14.04%),相対リスク0.485,95%CI [0.252-0.935],p=0.046)
【考察(結論)】本研究の結果,①地域高齢者において作業参加が当初1年間で維持・改善した人(良好群)は悪化した人(不良群)と比べて14年後の「心疾患」の有病率が0.38倍低い(※不良群は良好群に比べて2.62倍高い).②同様に「脊椎・脊髄障害」の有病率が0.48倍低い(※不良群は2.06倍高い)ことが明らかとなった.本研究結果は,疾病予防に対する作業参加に着目した予防的作業療法支援の可能性を示した疫学的根拠の一つとなるだろう.<謝辞:本研究はJSPS科研費JP18K10704の助成を受けたものです>