第57回日本作業療法学会

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一般演題

地域/MTDLP

[ON-3] 一般演題:地域 3/MTDLP 2

Fri. Nov 10, 2023 2:30 PM - 3:30 PM 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-3-1] 小学校におけるICF概念にもとづく障害理解教育授業の効果

慶徳 民夫1, 北山 淳1, 嶋田 隆一1, 佐野 祐貴子1, 丹野 克子2 (1.医療創生大学健康医療科学部作業療法学科, 2.山形県立保健医療大学保健医療学部理学療法学科)

【はじめに】
 小学校における障害理解教育(以下,DUE)の実施内容では「障害シミュレーション体験」が全体の51.3%と半数を超えているとの報告(今枝,2014)がある一方で,DUEには担当者の「障害観」が問われるという見解(久保山,2006)や疑似体験中心の障害理解では不十分との報告もある(芝田,2013).これらから,近年ではICFの障害の捉え方や環境因子との関係が必要とも言われている(岡野,2019).そこで,ICFを学ぶOTによる小学生へのDUE実践について報告する.
【目的】
 小学生でも理解しやすく興味関心を導きやすくするための新しいICF教材の開発を将来的な目的とした上で,まずは既存のDUE資料を用いた授業を実施し,その効果検証と今後のDUE授業のあり方を検討することを目的とした.
【方法】
 児童数約500人の小学校4年生3クラス計79人と6年生3クラス計76人の合計155人を対象として,ICF概念に基づいたDUE授業を各3回シリーズで実施した.授業テーマは,1回目「しょうがいってなんだろ?」,2回目「しょうがいをしょうがいにしないために」,3回目「体がうごかないってどういうこと?」とし,週に2回本学作業療法学科の作業療法士が担当した.実施時期は,2022年9月~11月までの約3ヶ月である.その際,実施したDUE授業の効果検証を目的として,1回目の授業前および3回目授業後に同じ内容のアンケート調査を実施した.アンケート内容は,障害の基本的な知識を問う設問が8問,障害への情緒面を問う設問が7問の計15問である.本研究は未成年者への調査であるため保護者への説明と同意を徹底し,本学研究倫理委員会の承認を受けた.
【結果】
DUE授業前後の比較(数値は設問に対して「はい」と回答した者の割合.McNemar検定を実施)
1.障害の基本的知識:「障害は病気やケガが原因だと知っていたか」の設問では,授業前4年生が64.6%,6年生66.2%に対して,授業後4年生83.5%,6年生76.1%と4年生が有意に増加した(p<0.05).また,「障害があっても食べることや字を書くことができると思うか」では,授業前4年生が54.4%,6年生60.6%に対して,授業後4年生89.9%,6年生81.7%と両学年とも有意に増加した(p<0.05).同じく,「障害があっても買い物や遊ぶことができると思うか」についても,授業前4年生が27.8%,6年生43.7%に対して,授業後4年生72.2%,6年生73.2%と両学年とも有意に増加した(p<0.05).
2.障害への情緒面:いずれの設問,学年でも有意な差はなかった.「障害者をみてどう思うか」の問いでは,かわいそう・大変だな・えらい・がんばって!の選択肢について,授業前4年生がそれぞれ34.2%,49.4%,2.5%,11.4%に対して,授業後31.6%,43.0%,5.1%,17.7%と前者2択が最大6.4ポイント減少し,後者2択は最大6.3ポイント増加した.同じく6年生では,授業前16.9%,59.2%,1.4%,14.1%に対して,授業後8.5%,57.7%,4.2%,19.7%と増減項目は4年生と同じで,前者2択は最大8.4ポイント減少し,後者2択は最大5.6ポイント増加した.
【考察】
 障害の基本的知識が授業後に有意に増加したことは,徳田ら(2005)による障害理解の発達段階の第二段階(知識化)が形成されたと推測され授業の効果と考えられる.一方で,第三段階(情緒面)の設問はいずれも有意な差はなく今後の検討課題である.しかし,「かわいそう」「大変だな」の割合が両学年とも授業後に減少したことは,久保山(2006)の「障害に起因する困難さにのみ注目する段階」をクリアする授業であったとも考えられる.