第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-4] 一般演題:地域 4

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-4-3] 作業療法士が就労支援事業所に転職し魅力を発見するプロセスの質的解明

森口 智恵美1,2, 岩田 美幸3 (1.徳島医療福祉専門学校作業療法学科, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科 作業療法学専攻, 3.吉備国際大学作業療法学科)

【はじめに】近年,働く障害者の増加に伴い就労支援に携わる作業療法士(以下,OT)は増加傾向であるが,就労支援事業所でのOTの役割は認識されておらず,求人見込みの少なさや待遇面での課題が指摘されている.このような中どのように就労支援に魅力を感じ転職しているのか.先行研究では,就労支援分野への転職に至る本質を問う研究は見受けられなかった.以上のことから本研究の目的は,OTが就労支援事業所に転職し魅力を発見するプロセスを解明し,キャリア発達のロールモデルを明示することした.
【方法】本研究は所属する大学院倫理審査委員会の承認を得て実施した.研究デザインは時間経過の中で転職したプロセスを解明するため,複線径路等至性アプローチ(Trajectory Equifinality Approach:TEA)を軸に,データ分析はSCAT(Steps for Coding and Theorization),ライフライン法を採用した.対象者は人生径路の多様性を解明するため4±1名とし,TEAでのサンプリング法に基づいて歴史的構造化ご招待を採用し,等至点を「就労支援事業所への転職」とした.データ収集はトランスビュー的飽和のため3回実施し,分析手順は個別にSCATによるテーマ・構成概念の抽出とライフラインを用いたTEM図作成,後に個々を統合したTEM図を作成した.以下,〈〉を概念で示す.
【結果】参加者は40歳前半から後半の男性3名.テーマ・構成概念数はA氏52,B氏53,C氏50であった.統合したTEM図は3期に分けられ,Ⅰ期は〈転職の決断〉までを示した.必須通過点として〈地域作業療法の場〉において〈就労支援の初めての実践〉がなされ,〈病院外の活動〉に積極的に参加していた.分岐点である〈転職の決定打〉は〈病院外関係者〉が社会的促しとなり,等至点とした〈転職の決断〉はA氏C氏が好奇心を伴う転職の決断,B氏が自己犠牲を伴う転職の決断が描かれた.Ⅱ期は転職後魅力を発見するまでを示した.業務や家庭に社会的制約を受け,分岐点として自身のキャリア,職場との協調,転職の後悔などの〈転職後の内省〉が起こるも,必須通過点として〈ポジティブ思考〉が描かれた.また,必須通過点として〈集団療法モデルによる作業分析〉がなされ〈就労支援の魅力ややりがいの発見〉が描かれた.Ⅲ期は〈挑戦心の目覚め〉から新たな目標に向かう径路を示した.分岐点としてB氏C氏は〈目的の追求〉がなされ〈挑戦心の目覚め〉が生じ,セカンド等至点として新しい取り組みをはじめ〈キャリアの変化〉が起こり,A氏は〈挑戦心の目覚め〉から〈キャリアのゆらぎ〉が示された.目標の領域は〈誰もが暮らしやすい地域の創造〉という共通する夢を持つ径路が描かれた.
【考察】TEAを用いて3名の参加者の経験を分析した結果,ロールモデルとなる条件を6つ明示できた.就労支援事業所への転職のプロセスからは,地域作業療法の場で積極的に就労支援を実践すること,病院外の関係者などの他職種と連携すること,転職を決める際はあまり準備せずに行動することが明示できると考えられた.さらに,転職後のプロセスから,これまでのやり方で仕事に臨まず,個人の役割の内容や構造を積極的に決定していくこと,自身の役割に対するポジティブな態度が示されることと考えられた.最後に,誰もが安心でき暮らしやすい地域の創造という大きな夢を抱きながらキャリアを発達させていくことがロールモデルの条件であると明示できたと考える.
【結語】本研究が就労支援に挑戦しようとするOTにとって,自身とロールモデルとの比較を通して目標の発見につながり,具体的な行動変容のきっかけとなることを期待したい.就労支援により多くのOTが挑戦し,地域に根ざし対象者のリカバリーを支える介入の一助になれば幸いである.