第57回日本作業療法学会

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[ON-6] 一般演題:地域 6

2023年11月11日(土) 12:20 〜 13:30 第2会場 (会議場A1)

[ON-6-2] チリ共和国,JICA海外協力隊OT隊員が行った作業療法啓発活動の継続性について

池本 英哲, 大森 まいこ (独立行政法人 国立病院機構 埼玉病院リハビリテーション科)

【はじめに,目的】
JICA海外協力隊は,現地の人々と共に生活し,草の根レベルでその国の抱える課題の解決に貢献する事業である.作業療法もJICAの対象であり,活動内容は「リハビリテーション(以下,リハ)関係者への技術向上支援」,「患者および家族に対する自宅でのケア方法の指導」,「一般市民等を対象としたセミナー等の啓発活動」が求められている.2015~2017年に要請を受け2年間,日本人が来たことがない南米チリ共和国(以下,チリ)の人口1万人弱の地方都市のニケン市に初めての作業療法士として派遣された.市の診療所に配属され,地域リハを実施した.2年間の目標を, 市民・関係職種に作業療法(以下,OT)の普及活動を行い理解や効果の向上を図るとことして活動した.今回,5年前の活動が地域に根付いているか再訪し関係者にアンケートを実施したため報告する.
【対象】
2015~2017年に所属した,チリ,ニューブレ州ニューブレ県ニケン市にて関わった診療所の元同僚,訪問リハ・通所リハ患者家族,老人ホーム職員, 一般市民の計47名.
【方法】
2022年12月5日~7日に医療関係者には,①派遣前にOTの存在を知っていたか.②今でもOTの役割を理解しているか.③患者や市民の中で今でも自主トレ等を継続しているか等の6項目を調査.患者家族,患者には,実施したリハに対する満足度やその効果の継続等について7項目を調査をした.尚,本調査結果を発表する事に対して,事前に対象者から同意を得て実施した.
【結果】
47名中,元同僚30名,患者家族5名,患者1名,職員2名,市民2名の40名から回答を得られた.元同僚の回答は,派遣前にOTの存在を70%が知らなかったが, 90%が今でも理解していると答えた.また,いくつかの高齢者グループで体操や脳トレを行っていると報告を受けた.患者家族,患者は,6例全てで100%の満足を得られた.フリーコメントでは,粘り強く関わっている.親身になっている,プロヘッショルであるとコメントを頂いた.その中でも,ダウン症の患者の介入について印象に残っているという回答が多かった.
【考察】
今回のアンケート結果より,派遣前と派遣後でOTの役割を理解している元同僚は90%に変わっており活動が継続されていた事が示唆された.また,患者家族,患者からの満足度を得られた理由は, 定期的に生活場面に介入し治療や助言をできた事がよかったと考える.現地の問題点として,カンファレンス等はなく難渋患者の情報共有や多職種連携は不足していた.そこに対し,日常的に報告・相談を映像を通じた情報共有,関係職種と行った高齢者グループなどへの訪問と様々な活動への参加,加えて活動報告を全職員向けに行ったなどの地道な多職種連携により,5年経ったがOT活動の理解が継続されていると考えている.
【終わりに】
現地に行き, ダウン症の症例と再会でき,活動後からリハが5年間未介入だったにも関わらず,家族の力でADL能力を維持できている姿をみて感動した.国を越えて時間が経っても自分のした気持ちが残り患者やその家族の役に立てた事は考え深かった.そして,再訪を通じて改めてOTの概念は世界共通である事がわかった.OTの根本である,「その人らしさや実際の生活に合わせて援助する事」は,どこでも変わらない.概念を持ち,現地の環境・文化・習慣に合わせてOTを展開することで継続的な支援と貢献に繋げられると考える.